最悪の事態

 現在の福島第一原発は明らかに危機的な状態にあると思われるが,どのような状態にあるのか良く分からない。記者会見などで記者は最悪の場合どうなるかを聞きたがるが,政府や電力会社の回答は歯切れが悪い。これは,想定される最悪の事態をそのまま正直に言ってしまうと,多くの人がパニックを起こし,大混乱が起こると考えて,きちんと答えないのではないだろうか。また,回答する本人自身が,最悪の事態をできるだけ考えないようにしているのかもしれない。最悪の事態を直視しないのは,良くあることだが,それによって大きな失敗をすることもこれまでの歴史が教えてくれることだ。

 私は二つの事例をすぐに思い出す。一つは,1941年の対米戦争を始める際の日本の政治的・軍事的指導者たちだ。その多くは,日米戦争で日本に勝ち目はないと考えていたのに,日本が負けるというあって欲しくない想定を直視せず,絶望的な戦争を始めてしまった。もう一つの例は,水俣病問題を引き起こしたチッソの幹部社員たちだ。自分の工場の廃水が原因だというあって欲しくない想定を認めずに,問題を拡大してしまった。

 Twitterなどを見ていても,悪い結果を予想するツイートに対して「煽り」だといって批判するツイートが少なくない。最悪の事態というあって欲しくないことを,みんなであえて考えないようにする雰囲気があるように感じてしまう。特に,ある程度専門知識がある人にそうした悪い予想を打ち消そうとする人が多い。科学的にはそれほど大騒ぎする値でもないのに大騒ぎしすぎだ,と。これは一見冷静な意見のように見えるが,実はあって欲しくない最悪の事態を考えないようにする心理から来ていることかもしれないので,注意が必要だ。

 最悪の事態を想定しないでいると,対応が後手後手にまわり,手遅れになることもある。専門家には,現在分かっていることから想定される最悪の事態をきちんと説明して欲しい。「煽り」との批判を恐れることなく,専門家の責任を果たしてほしい。最悪の事態についてきちんと伝える努力をしているのは,現在のところ,原子力資料情報室くらいだ。高木仁三郎さんが長らく代表を務めていた団体だ。そこは,このところ連日Ustで会見を行うとともに,本日「福島原発の危機について私たちは考えます― 原子力資料情報室からのメッセージ ―」を発表した。それ以外にも,UstやTwitterでは重要な情報が入手でき,目が離せない。

 いま,静岡で震度6強の地震が起き,千葉でも結構揺れた。東海地震の心配も出てきたということか。どこまで最悪の事態を考えなければならないのか。

追記:本日午前の関東での放射線計測値の上昇(おそらく福島第一原発からの放射性物質の排出に起因)に対して米軍はどう対応したかが気になり,米軍の新聞Stars and Stripesを見てみた。やはり,予防的措置として(as a precaution)厚木・横須賀等の米軍基地在住者の屋内待避を行っていた。これは,日本では福島原発から20〜30km圏の住民に対して取っている措置だ。しかし,今回のレベルの放射線は健康に対する影響を心配するほどではないときちんと説明している。こうしたやり方は見習うべきだと思う。

追記2:Stars and Stripesの昨日の記事には,今回の原発事故に対する米軍関係者の不安の様子が窺えて興味深い。避難しなくてよいのかという声も大きいようだ。

【天気】晴れ。今日の第4グループは9時20分から計画停電の予定だったが,幸い停電なしだった。明日の会議3つとも全て中止となった。