アメリカの予防的措置

 今回の福島第一原発事故に関して,明らかにアメリカの方が日本より慎重に行動している。これまでの歴史が明らかにしているように,日本政府は対応が後手後手にまわる傾向があるので,アメリカ政府の対応は日本人にとって参考になる。私たちは,米軍の新聞Stars and Stripes紙や在日アメリカ大使館(英文サイト)に注目すべきである。

 アメリカ国務省は昨日3/17,アメリカ国民に対して福島第一原発から80km圏内からの避難(もし不可能なら屋内退避)を勧告した(出典,下記追記2も参照)。これに対し,日本政府は20km圏は避難,20〜30km圏は屋内退避を指示。また,3/15に米軍家族の自主避難が認められたが,3/18に自主避難が開始されるという(出典)。

 アメリカ国防総省は,今回の原発事故の最悪のシナリオに備えて対応を進めているという。その報道記事も非常に参考になる。日本では,低線量被曝のリスクについてはほとんど報道されていないが,この記事には累積被曝線量50〜500ミリレム(0.5〜5ミリシーベルト)で4000人に1人の割合でガン発生が増加すると書いている。自然放射線でも年間2.4ミリシーベルトの被曝をしているので,同程度の線量は無害のように考えている日本人(専門家を含む,下記追記参照)が多いが,そうではないようだ。

 特に,放射線に対する耐性は人によって異なり,子どもや妊婦は影響を受けやすいと言われているので,平均値で考えては判断を誤る可能性がある。米軍も,優先順位をつけて自主避難させている。まずは米軍家族(女性と子ども)だ。現在,軍人軍属は避難対象とはなっていない。

 今回の原発事故で,放射線の危険性を強調することが難しいのは,それをすると震災と津波で大打撃を受けた東北が見捨てられる可能性があることだ。今後,復旧には多くの人手が必要だろうが,放射線の危険があるとするなら,人々は現地での支援を躊躇するかもしれない。

 しかし,私は正確なリスクを国民に知らせることが最善であると考える。なぜなら,リスクが分からなければ,人は予防のためにリスクを多めに見積もるからだ。本来なら引き受けることのできるリスクまで避けることになってしまう。被曝者差別(あるいは被曝地差別)もそこから,すなわち無知から来る。被害者がさらに差別に苦しむという歴史(広島・長崎・水俣など)はもう繰り返してはならない。もちろん,分からないことからくる不安やパニックもある。リスクを知らせなければ,国民は「知らぬが仏」でリスクのことなど考えないだろうという考えは甘すぎる。リスクを知らされなかったことに対する国民の怒りや不信をこそ恐れた方がよい。

追記:日本原子力学会のプレスリリース(pdf, 2011.3.16)では,「1回の被ばくで100000μSv(100mSv)を大きく超えた場合にはガンの発生確率が被ばく量に比例して増加するとされていますが,それ以下の被ばくではガンの有意な増加はみられていません」と書かれている。

追記2:米政府が80km圏内からの避難を勧告している根拠となる米原子力規制委員会の計算がNew York Timesに載っている。非常に分かりやすい図だ。計算によれば,80km圏内では10レム=100ミリシーベルト以上の被曝の危険性があるという。これが避難勧告の根拠だ。日本政府は20km, 30km圏内の退避について特にリスクに関する根拠は示していない。

【天気】晴れ。15:20からの計画停電は,私の地域では実施されなかった。

  • 09:13  ブログ更新「アメリカの予防的措置」米国務省や国防総省の今回の原発事故への対処は参考になります。 http://bit.ly/dYYcML