カンニングは偽計業務妨害か

 今回話題になっている入試不正行為を試験問題漏洩事件と捉え,それを入試業務の妨害と考える人もいるようだ。確かに,事前に試験問題が漏洩し,それがネットに公開されたならば,その問題を使っての試験は実施できなくなり,入試業務に大きな支障が生じる。それは明らかな業務妨害と言っていいだろうし,試験問題の漏洩に関わってその他の犯罪が絡んでくるかもしれない。しかし,今回の事件は,これによりその試験が無効になり,試験のやり直しがなされたわけでもなく,単に不正行為をした受験者が不合格となるだけのようだから,その意味での偽計業務妨害というのは難しいと思う。それより,今回業務妨害と考えられている主な理由は,このカンニング騒動で,ただでさえ忙しいこの時期に大学関係者が余分な仕事をしなければならなくなったということだろう。そこで,ここではカンニングが偽計業務妨害と言えるかどうかを考えてみたい。

 私はレポートの採点をしていて,時々コピペレポートを発見する。最近はコピペルナーであらかじめスキャニングをすることもあるが,基本的には読んでいて「おかしい」と思うことがあるからだ。そうすると,レポートの内容を評価することよりも,それが本当に剽窃なのかどうかの証拠を見つけることに多大な労力を使うことになる。通常1人分5分で終わるレポートの採点が,10分,15分と何倍もの時間を費やしてコピペの元になったウェブページを検索することになる。それで見つかればまだいい方で,見つからないこともしばしばだ。コピペの証拠を探すという不毛な業務は,学生が不正を行わなければしなくてもいい仕事で,こんな事に時間と労力を費やされるのはかなわないと毎回思っている。教材研究など,もっと生産的なことに仕事時間を使いたい。だからこそ,少しでも省力化しようとコピペルナーを使うのだ。

 しかし,だからといって,私はコピペレポートを提出した学生の不正行為を偽計業務妨害だといって警察に被害届を出そうとは思わない。当たり前だ。コピペレートを発見し,証拠をつかみ,それなりの制裁をする(今はレポートの点数を零点にするくらいだが)ということは,教育を本務とする私の業務の一部だからだ。不正を発見し,適切に対応することは,教育機関である大学が当然行うべき業務だ。知的誠実さを何よりも重んじる大学の姿勢を学生に,そして社会に示すためにも,不正は決して許さないということを行動で示さなければならない。

 そうであるならば,新手のカンニングがなされようと,またそれによって対応が今までになく大変になろうと,泣き言を言わずにこれまでどおり適切に対応すればいいだけだ。そして,今後はそのような不正が発生しないように最大限の努力をするだけだ。そこに警察は関係ない。カンニングを偽計業務妨害と見なして被害届を出す大学は,自らの責任を放棄しているように思えてならない。

参考:高橋源一郎さんのツイート(2011.3.3)

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