イン・ザ・ミドル再読(1)

アトウェルの『イン・ザ・ミドル』の再読を始めた。今学期,リーディング/ライティング・ワークショップのやり方を取り入れた。自分で試してみた上で再読すると,新たな発見があるかもしれない。第1章まで読了。

ナンシー・アトウェル(小坂敦子・澤田英輔・吉田新一郎編訳)『イン・ザ・ミドル—ナンシー・アトウェルの教室』三省堂,2018年,368頁(原書第3版2015年)

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第1章 教えることを学ぶ

本章のテーマは,「子どもたちが学ぶ論理」と,「譲り渡し(handover)」の二つだろう。本章のエピグラフは,「私たちが教える論理が,子どもたちが学ぶ論理と同じとは限らない」というグレンダ・ビセックスの言葉だし,本章の締めくくりでも「ワークショップで教える教師は,……子どもたちが学ぶ論理を知ろうと日々奮闘しています」と書かれている。生徒たちの学びをじっくり観察し,必要なことを教えるという教育のあり方は,一方的に知識を与える教育とは全く異なる。今学期,ワークショップを始めたが,まだまだ学生たちが学ぶ論理を理解するところまでは言っていない。

他方,譲り渡しという概念は,この間,ワークショップを実践したり,関連文献1を読んだりして,だいぶ理解が深まった。当初私は,単に「渡す」という単一の行為のイメージしか浮かばなかったが,これは段階的なプロセスとして考えなければならないことが分かってきた。このことは,本書をよく読めば書いてあったことで,その説明としてアトウェルは自分の娘に靴ひもの結び方を教える場面を描いていた。まず,自分で結んでみせる。次に,娘にやらせてみて,手助けする。次第に手助けを減らし,最後には自分一人でできるようになる。これが靴ひも結びのスキルの譲り渡しだ。

このプロセスで大事なのは,娘が靴ひもを結ぶことができる年齢に達していることと,娘が靴ひもを自分で結びたいと思っていること。これは,大学での授業でも同じことだ。学生が,教えようとしているそのことができる準備ができていて,しかも学生がそのことを学びたいと思っている。これらの条件が整わない状態で教員がいくら熱心に教えても効果はないだろう。

また,教員が教えたあとで,実際に学生が自分の力でやってみることが大事で,またそれを教員が手助けすることも大事だ。今学期の授業では,文章を書くことについては,それがある程度できたように思うが,それ以外(読書や講義内容の理解)ではまったく心許ない。

読書関係の指導がほとんどできなかったのは,時間の関係による。授業時間の半分を従来型の講義に充てていたため,読書関係のミニレッスンやブックトークをすることができなかった。全面的なワークショップ形式への移行を遂げ,従来型の講義に代えてミニレッスンやブックトークを行うようにならなければ難しいと思う。今のところ,そこへ行くまでの準備ができていない。しかし,何とか「次に読むのに適した本が常に目の前にあるよう」(p.45)な環境を整える方法を考えていきたい。

  1. 『「学びの責任」は誰にあるのか』など。