イン・ザ・ミドル(2)

第5章まで,2018.7.29読了。

ナンシー・アトウェル(小坂敦子・澤田英輔・吉田新一郎編訳)『イン・ザ・ミドル—ナンシー・アトウェルの教室』三省堂,2018年,368頁(原書第3版2015年)

イン・ザ・ミドル(1)」からの続き。

第3章 ワークショップ開始

ライティング・ワークショップとリーディング・ワークショップの最初の数日間を取り上げ,どのように軌道に乗せるかを具体的に説明している。この授業は,生徒の主体的な活動が命なので,書く方も読む方もしっかりオリエンテーションを行っている。

特に参考になるのは「ワークショップ・ノート」と呼ばれる100頁のノートだ。このノートには,次の4つのセクションを設けて,ワークショップの際のハンドブック(必携書)として利用する(下の数字はノートのノンブル)。

  1. (最初の3頁,目次)
  2. 1-17 題材リスト
  3. 18-19 読みたい本リスト
  4. 20-93 ノートセクション(ミニ・レッスン用)
  5. 94-97 文学用語リスト

私なら,これにジャーナルを書く4頁を加えたい(1日1行)。1頁を縦に二つに割って,ライティングとリーディングの簡単な記録を付けさせる。アトウェルが「今日の予定表」や「チェック・イン表」で書いているような内容(87,90頁)。アトウェルは教員が生徒の学習状況を把握するためにこれらの表を作成しているが,大学では教員がすべての学生の学習状況を常時把握するのは困難なため,自己管理してもらうのだ。自己管理も大学で学ぶべき重要なスキルだろう。

アトウェルは,このワークショップ・ノートを生徒に自分で作らせている。ミニ・レッスンの際に配布するプリントは毎回,セロテープで留めさせている。教員が板書したことを写させる場合もある。この方式は臨機応変にミニ・レッスンを行うには最適の方法だが,ある程度ミニ・レッスンの内容が固まってきたら,ミニ・レッスン部分をあらかじめ印刷した冊子を作って,学生に買ってもらってもいいかもしれない。現在は,オンデマンド印刷で少部数の印刷がかなり安く行える。毎年の改訂も容易にできる。

アトウェルは毎回の授業を「今日の詩」から始めている。文学を教える授業なのでそれが最適なのだろう。では,歴史の授業では何がいいのだろうか。歴史解釈に役立つような歴史書や史料の一節などが使えるだろうか。

アトウェルの方法は,十分なサポートを用意して,生徒にひたすら書き,読むことを求める。毎日の授業でそれを行うだけでなく,宿題でも毎日読み,週末に書くことを求めている。大学の授業は週1回しかないので,読み書きを習慣化させるのはかなり難しいが,その意義を説明して促す努力をするしかない。

第4章 書き手を育てるミニ・レッスン

ライティング・ワークショップでのミニ・レッスンの仕方が具体的に説明されている。基本は,書き手が実際にやっていることをきちんと見せるということだ。大学の初年次教育では,レポートの書き方などを教えているが,型にはまったことを説明するだけで,実際に書き手が行っていることを見せてはいない。アトウェルはそうした教え方を批判して,自分が実際に書き手としてやっていることを生徒に見せている。これはとても参考になる。

書き言葉の約束事(convention, 「慣習」と訳されている)を厳格に教えていることも印象に残る(すべての原稿の最終校正は教員が行っている)。私も卒論指導の際にはそのようなことを行ったが,教養科目の講義で100名単位の学生を相手にそれを実現するのは難しい。何か良い方法を考えなければならない。

第5章 読み手を育てるミニ・レッスン

本章では,リーディング・ワークショップの手順と文学のミニ・レッスンの仕方が説明されている。その中で「二つの読み方」(218頁)が紹介されている。「喜びを味わう」読み方「情報を得る」読み方だ。歴史分野でワークショップを行うには,この二つの両方を取り入れる必要があるだろう。私が授業でライティング・ワークショップ/リーディング・ワークショップを行うなら,ライティングの方では「情報を得る」読書を行い,リーディングの方では「喜びを味わう」読書を行って,はっきり二つの読み方を区別して読ませたい。そうしないと,歴史家の作品を情報の集まりとしか捉えられなくなってしまう。そのことは,学生が歴史的作品を書くときにも反映されるだろう。

アトウェルは国語の他に歴史も教えていたというが,歴史に関する本を読むことについては少ししか書かれていない(219-220頁)。国語(文学)が専門のアトウェルは,歴史家がどのように本を読み,文章を書くかについては自分の専門外と考えているのだろう。「理科の教師,歴史の教師が,それぞれの教科での書き方を示し,その教科での課題を出し,フィードバックすべきだと考えています」と書いている(220-221頁)。

この訳書では省略されている文学のジャンルに関する部分は,それぞれの教科内容に関する指導をワークショップ形式で行う際の参考になるのではないかと予想している。訳書を読み終わったら,原書を読んで検討してみたい。

【天気】台風12号は関東の南海上を西に進み三重に上陸。中国地方を横断して九州北部へ。