少し早めだが,第12週に入るところで今学期の反省をする。今学期は,ワークショップ形式を取り入れた最初の学期。いろいろと反省点が見出された。2/10最終更新
読書・執筆ワークショップ
昨年の夏休みにアトウェルの『イン・ザ・ミドル』を読み,初めてリーディング&ライティング・ワークショップを授業に取り入れた。前期も,講義時間を短縮して個人学習とグループ活動の時間を設けたのだが,グループ活動の時間をミニレッスンの時間に振り替えた形だ。なお,下表の数字は授業中に行う順序。
前期 後期
①グループ活動 → ②ミニレッスン(講義)【20分】
②講 義 → ①講 義【45分】
③個人学習 → ③編集会議・個人学習(読書・執筆)【30分】
④振り返り → ④「学びの軌跡」入力【5分】
当初,ミニレッスンでは,講義に加えてグループ活動も行うつもりだったが,時間がかかりすぎるので,グループ活動はしなくなった。その代わり,個人学習の前に班ごとの編集会議を開き,査読者を決めたり,原稿・査読結果の受け渡しをしたりすることにした。査読(ピアレビュー)という形でグループ活動は行ったことになる。
ミニレッスンでは,読書・執筆ワークショップの手順や読み手・書き手の技を伝える講義(実演を含む)を行った。内容は以下の通り(授業では,以下の項目をいくつかまとめて実施)。
- 読書ワークショップで期待すること
- 読書ワークショップのルール
- 読みたい本リストを作る
- 読書記録用紙
- 本の探し方
- 本の選び方
- 執筆ワークショップで期待すること
- 執筆ワークショップのルール
- 執筆ワークショップのサイクル
- 査読用紙
- 編集会議の進め方
- 良い書評の特徴
- 書評でよく使う言い回し
- 書評を書く手順
- 良いレポートの特徴
- 応答パターン別 レポートの書き出し例
- 信頼できる資料の探し方
- 要約と引用
- 出典の表し方
- 剽窃について
- 推敲と改稿
- 学習ポートフォリオ
十分な説明をせずに活動させたことに対する前期の反省から,どのように活動すべきかをできるだけ具体的に説明することにした。特に教師がやってみせることを重視した。例えば,書評と小レポートの執筆は,構想段階から最終稿までの各段階を授業サイトの教員ブログで公開した1。
しかし,読書と執筆を分けなかった(分けて行うほど時間がとれなかった)ことで,読書に関しては学期の初めに少し取り扱うだけになった。そのため,興味をもって読み進めることができる本に出会えない学生が残ってしまったようだ。そうした学生は,ただただ読書を強制される無駄な時間を過ごしたと思っているようだ。それが,学期末の授業アンケートで判明したことが残念でならない。読書の時間の個別カンファランスがあれば避けられた事態であった。
また,前期には毎回違うテーマで小レポートを書かせたが,これが余裕のなさにつながったため,マイペースで進められるよう,執筆数や締切は自分で決められるようにした。ただし,書評・小レポート・期末レポートそれぞれ最低1篇を単位取得のために必須とした。そのため,結局学期末にばたばたとレポートを書く受講者が多発した。3篇はノルマとしては多すぎたようだ。来学期は書評とレポートそれぞれ1篇以上をノルマとしたい。
評価は,学習ポートフォリオをもとに行うことにした。自分の学習に責任を持ってもらう意図がある。ただ,学習ポートフォリオの作成にもフィードバックが必要だったようだ。したがって,中間段階で一度学習ポートフォリオを作成し,学期末にそれを加筆修正する形にした方がよいだろう。そうすれば,中間段階でのフィードバックを最後に生かすことができる。
授業サイト
授業サイトは,前期と同様,Web教材とブログを主体としたものとした。どちらも,WordPressにCommentPressプラグインを導入し,段落毎にコメントが付けられる仕様である2。ブログはクラス毎に設置(合計6クラス分)。学期途中での班の再編成を想定して,班ごとのブログにはしなかった。しかし,結果的に今学期は各班の人数が減りつつも,ほぼ全ての班が3名以上で安定しそうなため,班の再編成は行わなかった(もとの班の人数は7〜9名)。この判断は今学期に関しては正しかったようだ。
前期は,Web教材をWP Coursewareというオンライン講座作成用プラグインを用いて作成した。進捗状況管理や小テストなどができるものだった。後期は,単純なウェブページとして作成した。というのも,前期は小レポートの提出有無を同プラグインの機能を用いて確認したのだが,後期はポートフォリオを提出させるので,その必要がなくなったからである。
学びの軌跡
ブログには,「学びの軌跡」と呼んでいる学習記録を投稿することができるようにした。毎回の授業では,読書と執筆のそれぞれについて自分の進捗状況を簡単に記入させた。これにより,教員は受講者の進捗状況を確認することができる。表示のさせ方により,ある学生のこれまでの学びの軌跡を時系列的に追うこともできるし,ある日のクラス全体あるいはグループの学びの軌跡を一覧表示して,クラス毎,グループ毎の進捗状況を把握することもできる。これは,他のブログ記事同様,受講者同士で見ることが可能なので,クラスの中での自分の位置を確認することもできる。なお,これはかつて試した「学習カルテ」に代わるものである。学習カルテは,教員が受講者の投稿を読んで書き込むものだったが,これはやりきれずに挫折した。そこで,学生自身に書かせることにした。一行どころか,一言しか書いてくれない学生もいるが,全体としては十分実用レベルに達していると思う。入力欄は,読書と執筆を分けて書かせる方式としたが,それ以外の内容(例えば,最終回の学習ポートフォリオの作成など)もあったため,これについてはもう少し考えた方がよさそうだ。現在は,アトウェルのやり方をほぼ忠実にまねて,「今日の読書予定」と「今日の執筆予定」とでもして,読書の時間と執筆の時間の前に書いてもらうといいかもしれない。私はそれを見て,個別のカンファランスを行うのだ。
査読方式
前期は,期末レポートのみ,ピアレビューを行って改稿させたのだが,今回は書評・小レポート・期末レポートのすべてについて班のメンバー2名から査読を受け,改稿の上提出することを義務付けた。ちなみに,改稿前の第1稿も提出させる。それにより,改稿によってどれだけ改善されたかが分かる。さらに,ポートフォリオにはどのような査読意見をもらったかも書かせる予定。査読者は編集会議で決めさせ,査読意見は専用の用紙に書かせる。学会誌などでやっている査読システムを模している。
編集会議は,単に査読者を決め,原稿や査読用紙を受け渡すだけの機会だったが,実際の編集会議のように,何らかの議論を行わせても良いような気がする。それは,論文審査というより,書かれた文章の内容をめぐるグループ討論のような形がよいだろう。定期的にそのようなグループ討論の時間を設けてもよいかもしれない。受講者からも,もっとグループ討論がしたかったという感想が複数寄せられた。
カンファランス
前期は,個人学習の時間を質問タイムにもしていて,教員に質問があれば質問しに来るように言っていた。しかし,ほとんど質問に来る学生はいなかった。そこで後期は,教員が机間巡視をして,質問があれば教員が近くに来た時に声をかけるように言った。そうしたら,時々質問を受けるようになった。なお,アトウェルのワークショップでは,教員が受講者に声をかけて回って数分ずつのカンファランスをかなりの数,行うようであるが,まだそれはできていない。上にも書いたが,やはりカンファランスが必須のようだ。来学期では是非ともこの個別カンファランスを実行したいと考えている。
教員ブログ
前期は,ニュースレターをメールで配信したが,あまり読まれていないようだったので,授業サイトに教員ブログを設置し,そこに記事を書くようにした。トップページに最新記事が現れるようにし,サイトにアクセスするたびに目にするようにした。このブログには,様々な連絡,注意喚起,執筆過程の公開などを掲載した。ニュースレターよりも効果があったような気がする。
配布資料
ミニレッスンに関連して,けっこうな数の印刷物を配布した。アトウェルは生徒にハンドブックという名のノートを持たせ,そこにミニレッスンの内容を筆記させたり,配布資料を貼りつけさせたりするという3。私は今回そこまではしなかったが,配布資料を渡した方がいいと判断したものは印刷物にして配布した。ただ,ウェブサイトへのリンクを含むようなものは,ウェブにあった方が便利なので,授業サイトにもWeb教材のコーナーに資料を用意した。配布資料は,その時だけでなく,何度も参照する価値のあるものである。だからこそ,アトウェルはハンドブックに貼りつけさせたのだろう。私も,バラの資料として配布するよりも,綴じた冊子になっていた方が参照に便利だと思うようになった。そこで,来学期は冊子体の資料を作ろうかと考えている。
講義
講義は,毎回約40分くらい行った。これは,従来の講義の約半分の時間であるが,内容を改めて作り直す余裕はなかったので,従来の講義の短縮版となった。これが学生の学びにどの程度役だったのかは良く分からない。もっとワークショップと有機的に関わるような講義が望ましいのだろうと思う。
アトウェルは,ワークショップの最初に「今日の詩」を扱うという。文学を教えるのに,詩はもっとも適した題材なのだろう。歴史を教えるのにも,詩と同じような機能を果たす題材を見付ける必要がある。今のところは,歴史書・歴史論文の一節や教員が書いた小レポートなどが使えるのではないかと考えている。20分程度で講義できれば,1コマ(100分)の授業で読書と執筆の両方をそれぞれ20分程度行わせる時間がとれる(今学期は,読書と執筆のどちらかで毎回20分程度時間をとった)。
来学期に向けて
来学期に改善すべき点は以下の通り:
- ミニレッスンの配布資料をまとめた冊子(ハンドブック)を作成する。
- 執筆中ファイル(授業に持参)と完成作品ファイルを持たせる。
- 読書と執筆をできるだけスムーズに開始できるよう,最初にブックトークと題材探しを行う。
- 読書ワークショップのミニレッスンで,歴史書などの読み方を教える。
- カンファランス(査読)に関するミニレッスンを行う。
- 自分用の校正項目リストを作成させ,校正の際に注意させる。
- 同一科目他クラスの投稿を容易に読むことができるようにするため,ブログを科目毎に設置する。すなわち,学生用のブログは2つだけとなる。その他に教員ブログが1つ。各科目のWeb教材(ブログ)が2つ。したがって,授業サイト全体で5つのブログを立ち上げることになる。今学期は,クラスブログだけでも6つあったので,だいぶ少なくなる。それだけ管理も楽になる。
- 提出物のノルマをさらに少なくする。というのも,授業期間の終わり頃になっても,まだ1篇も提出できていない受講者が結構いるため。
- 学期の初めの頃から,読書と平行して執筆も進めさせるようにする。書き出しが早ければ,執筆本数も増えることだろう。今学期は,書評の執筆から始めたため,本を読み終わるまでにかなり時間が経過してしまった。
- そのためにも,講義時間をさらに短くし,ブックトークを含め各回30分程度で終えるようにする必要があるだろう。これでは,もはや内容を十全に教えることはできない。各回テーマに興味を持たせ,そのテーマの広がりを示すことで時間が尽きるだろう。したがって,興味を持った事柄については,自分で調べるように促す必要がある。興味を持ったことについて読書をし,文章を書くことにより主体的な学びが実現できるに違いないと期待している。
- 教員の方から積極的に本の紹介をする(ジャンル毎にまとめた本のリストやブックトークなど)とともに,受講者同士でも紹介し合えるように,授業サイトにおすすめ本コーナーを作りたい。
- 学習ポートフォリオ(自己評価用紙)に箇条書きで答えさせる。学習ポートフォリオは,中間段階で一度作成させ,フィードバックを与える。
終わりに
今学期,私が理想としてきた授業にかなり近づけたような気がする。教員が持っている知識をただ学生に渡すだけの授業ではなく,教員も学生も同じ学ぶ者として教室の中で交流する授業だ。今回,学生と同じように書評と小レポートを作成するということを試みた。これは良い経験だっただけはなく,楽しかった。学ぶことの楽しさを改めて実感できたことは,学生を指導する際にも何らかのよい影響を及ぼしたのではないかと思う。これからも,教員が学びを楽しんでいる姿を学生に見せていきたい。
2/10追記
結局,読書・執筆ワークショップ形式は,2019年度の授業では取り入れないことにした。今学期の授業アンケートの結果がかなり悪化したためである。まずは元に戻し,また機会をねらって挑戦したい。なお,来年度は目先を変えて,討論重視の授業を試みる予定4。
注
- 「自分が書くこと」参照
- 「CommentPressその後」参照。
- 「イン・ザ・ミドル(2)」参照。
- 「シラバス入力完了」参照。