教員自身が書くこと

 ライティング・ワークショップを授業で実施する際に大事だと言われていることがある。それは,教師自身が書くことだ。これは,アトウェルの『イン・ザ・ミドル』にも書いてあったし,それを訳したあすこまさんが書いた部分でも強調されていた。あすこまさんのブログでもだいぶ前にそのことが紹介されている(「作文を教える秘訣は,自分が書くこと。」)。そこまで言われているのだから,ということで私も今学期の授業では,学生に書くことを要求している書評と小レポートを書いて,その過程を受講者たちに公開した。書評は10月中旬から11月上旬にかけて,小レポートは11月中旬から下旬にかけて書いた。学生のペースより少しだけ早いというタイミングである。学生の中に自分も書こうという意欲がわいてくるのを期待した。

 私の授業では,科目毎にブログを設置し,その科目を受講している学生には,第1稿と最終稿を投稿するように言ってある。それ以外のものの投稿は義務ではないが,私は学生と同じように第1稿とそれを改稿した最終稿のみならず,原稿を書き出す前の段階の題材リストやメモ書きなどもブログに投稿している。また,プリントアウトした原稿に赤ペンで書き込みをしたものの画像も投稿し,推敲の過程も示している。

 今は時間の関係で,自分が書いたものや書くプロセスについての口頭での説明はしていない。ブログに載せたものを読んで参考にするように言っているだけである。果たしてこうしたことがどれほどの効果を生むのかはまだ良く分からないが,今後は自分が書いたものをミニレッスンの教材として使うこともできるだろう。

 自分が書くことのメリットは,「書く」ときに何をしているのかを改めて意識することができることだろう。自分が書く時に実際にやっていることをミニレッスンで学生に教えるようにしている。これまでのミニレッスンで教えたこと(予定を含む)は以下の通り。

  1. 執筆ワークショップで期待すること
  2. 執筆ワークショップのルール
  3. 執筆ワークショップのサイクル
  4. 編集会議の進め方
  5. 査読用紙
  6. 良い書評の特徴
  7. 書評を書く手順
  8. 書評でよく使う言い回し
  9. 良いレポートの特徴
  10. 応答パターン別 レポートの書き出し例
  11. 信頼できる資料の探し方
  12. 要約と引用
  13. 出典の表し方
  14. 推敲と改稿(予定)

 自分も書いていると,学生と一緒にワークショップをやっているという意識を持てるのも良い点だ。

 ここでは,書評を書いたプロセスのみを転載する。授業サイトでは,そこに各成果物へのリンクが張ってあり,学生は教員が書いたものを見ることができる。

書評が出版されるまで

 書評を書く際の参考にしてもらうため,教員が書評を執筆する過程を公開してきましたが,この度査読を経て最終稿が完成しましたので,それまでの経過をまとめておきます。

10/9 構想メモ
 書評の内容・構成のパターンは基本的に決まっているので,メモ自体は

(本文構想)
・各章内容の紹介
・旧著からの変更点(省略された部分と追加された部分)
・本書出版の意義

という程度でした。そのメモに,書き出し案と結び案をいくつか書いて方向性を決めてから,ワープロに向かって執筆を始めました。

10/26 第1稿
 推敲前は1769字でした。取り敢えず思い付く内容を最後まで書いてみました。その後,紙に印刷して推敲し,余白に赤ペンで修正箇所を書き込みました(その様子が分かるように,画像を掲載しています)。推敲の過程でかなりの書き込みを行いました。

10/28 第2稿
 さらに,著者を紹介する段落を追加して分量が増えました。これをまた推敲しています。

10/30 第3稿(投稿バージョン)
 2日ほど寝かせて,再度推敲しました。これを化学史学会学会誌『化学史研究』編集委員会に送付しました。

11/3 編集委員会
 私自身,化学史学会編集委員なので,私の原稿がどう取り扱われたか分かるのですが(論文の審査の場合は,本人は退席させられますが,書評は慣例により同席できます),ある別の編集委員が査読を担当してくれました。

11/4 査読結果通知と最終稿完成
 編集委員長から,査読結果が通知されました。2か所ほど,表現上のコメントがありましたので,その指摘通りに修正し,最終稿を編集委員長に送付しました。結局,2201字になりました。第1稿から500字ほど増えています。これが次回12/23の編集委員会に提出されて,了承されれば,来年には学会誌に掲載されます。

 構想メモを書き始めてから約1か月。2000字程度の書評を書くにも,結構時間と手間暇がかかりましたが,完成すると嬉しいものです。さらに,これが出版されて多くの読者に読まれると思うと,書いた甲斐があったと思えます。受講者のみなさんにも,是非この授業で自分の原稿を少しずつ改良していく作業の面白さと重要性を実感してもらえたら嬉しいです。