学習カルテ

大勢の学生の個々の変化(成長)を線として捉えるための手段として,今学期,学習カルテを導入し始めた。個々の提出物を点として捉えることを克服する試みである。

これまで,成績評価のためにレポートや試験を行ってきたが,その際の評価は,あるべきレベル(100点)に対してどれだけ出来ていないかという目で評価するものだった。フィードバックも,こことここが出来ていないのでAではなくB,などという形になる。満点に近いものを除いて,大体の学生にとって,評価とは自分のダメなところを指摘されることなのだ。教員は,ある提出物を見る時,どうしても出来ていないところに意識が向いてしまう。それは,教員の視線が,提出物を書いた学生ではなく,提出物に向いているからである。

しかし,そのような評価はどれだけ意味のあることなのか。特に,学生の成長にとって。学生の成長を第一に考えるならば,まずは出来たところを指摘し,褒めることが大事だろう。そして,さらに良くするにはどこを改善すれよいのかを指摘する。そして,それが改善されたら,またそこを褒める。こうしたプロセスの連続こそが,学生を伸ばす評価だと思う。

私は,そうした繰り返しの評価のために,毎回の授業で小レポートを課すということにした。フィードバックの回数をできるだけ増やすためである。学生は自グループ(最大8名)のメンバーの投稿に毎週数個のコメント付けるだけなので,それほど大変ではないと思うが,教員は毎週約240名もの学生を相手にコメントを付けることになる(提出物は毎週2つずつなので,全部で約480個)。自分の記憶のみに頼っていては,個々の学生の変化を的確に把握することは不可能だ。

そこで考えたのが学習カルテを付けることである。病院の医師が患者のカルテを付けるように,教員も学生の提出物の記録をカルテに記入していく。その記録を通してみれば,学生の変化(成長)を把握することができるだろう。フィードバックや評価も,個々の提出物を点としてみて,ダメな点に指摘するのではなく,これまでの流れの中で良くなった点を指摘し,さらに改善すべき点をアドバイスする。

今回私は学習カルテをFileMaker Proで作った。各回の小レポートと振り返りの記録を書く欄を個人毎に設け,ある投稿を読んだら,短くコメントを入力する。理想は次のようなものである。ある学生の数回分の投稿をメモを取りながら読んでいく。そして,線として捉えた学生の変化に寄り添うようにして,学生の投稿にコメントを付けていく。ダメなところがたくさんある場合は,一度にたくさんコメントしたくなるが,ぐっと抑えて最も大事な点を一つだけ指摘する。

まだ始めたばかりだが,どうしてもダメな点を指摘したくなる自分に気がつく。
 提出物の向こうにいる学生に目を向けるべし。
これを自分に言い聞かせながら,コメントの言葉を考えている。

参考:良い学び手を育てる(2018.2.12)

【天気】晴れ。