今週は,新型インフルエンザの授業の2回目。現在進行中のワクチン問題を取り上げる。夏以降,しばらくインフル問題のフォローをサボっていたので,流れを追うのに時間がかかる。さらに,授業で見せるビデオを選ぶのにさらに時間がかかった。まとまった使いよい番組はなかったので,ニュースの録画の中からいくつかを選んだ。ワクチン問題でも,リスク・コミュニケーションはうまくいっていないという話をする。
現在の多くの人々のワクチン理解には二つの問題がある。
一つは,今回のワクチンは有効性も危険性も良く分かっていない実験段階の薬であるということを十分理解していないということ。今回ワクチンを打つことは,人体実験に参加する覚悟が必要なのだが,多くの人はワクチンを打てばインフルエンザにかからず安心だ,くらいにしか考えていないのではないか。国が進めている対策だから,有効で安全なのだろう,と安易に思い込んでいないか。国は,「自己責任でどうぞ」としか言っていない。
もう一つは,「今回のワクチン接種の目的は重症患者の発生を減らすこと」というのを誤解して,「今回のワクチンは重症化を防ぐ効果しかない。感染防止には役立たない」と思っている人がいること。もしそうなら,医療関係者が真っ先に接種する必要はないはずだ。ワクチンには当然のことながら,感染防止効果が期待されている。ただ,それはどの程度なのか実証されていないということだ。そして,重症化防止も同様に,効果が期待されているが,実証はされていない。実験段階なのだから,しかたがない。
10/29のNHK「大人ドリル」で,今回のワクチン接種の目的(言い換えれば,優先順位を決めるための原則)とワクチンの効果とを混同した解説をしていて驚いた。NHKの解説委員でも良く分かっていない。そして,誤解を広めていっている。
10/21, 10/22追記:
皮下注射された不活化インフルエンザワクチンは血液中に抗体を作るだけで,鼻やのどなどの局所での抗体を作るのではないから,局所での感染(ウイルスの増殖)は防止できないという指摘があることを知った(NHK解説委員の説明はこの話だった。この知識がかえって,ワクチン接種の目的と効果を混同させたのかもしれない)。他方,血液中の抗体が局所の免疫を高めるという意見もあるようだ。いずれにせよ,免疫力が高まることは確かで,人によって鼻やのどに感染し,軽い症状が出る場合もあれば,まったく症状が出ない場合もあるということだろう。もちろん,それでも重症化する人もいるかも知れない。しかし,「一定の」感染・発症・重症化防止効果が期待できるというのは間違いなさそうだ。問題は,「どの程度か」ということ。これは,実験で確かめてみないと分からない。それが分からない現在は,みんなでギャンブルをやっているようなものだ。日本政府は,重症化防止に賭け,感染防止については賭けていないように見える。外国の政府は,感染防止についても結構賭けているようだが(米CDC曰く: “Vaccines are the most important tool we have for preventing influenza”; “CDC Says ‘Take 3’ Actions To Fight The Flu. These actions will protect against 2009 H1N1 too!”)。
【天気】雨のち曇り。