前期最後の授業が終わってから3週間以上がたち,やや記憶が薄れつつあるが,新学期の準備を始める前に今学期の授業の反省をする。
読書記録シート
今学期の新しい試みは,受講者に授業と平行して授業に関係する本を選んで読み,簡単な読書記録をつけてもらうというものである。読書記録は,1枚の読書記録シート(裏表で10冊まで記入可)に書いてもらい,1冊読み終わったら授業で提出し,翌週返却してまた記録を続けるという形をとった。1学期分を学期末にまとめて提出してもらってもよいのだが,途中経過を把握し,どのような本が読まれているかを逐次授業サイトを通して受講者全員に知らせるため,このようにした。選書の参考に,授業関連文献のリストを提供した。なお,成績評価への反映は,ボーナス点として10%(10点)まで反映させることにした(つまり,提出なしでも減点なし)。
義務ではないので,だれも提出しないのではないかという恐れもあったが,実際には各クラス,数名が読書記録シートを提出した(受講者が1年生のみの1クラスを除く)。読んだ冊数は1人2冊くらいから,多い人では5冊以上という例もあった。アマゾンのレビューをもとに,一度に10冊も書いてきた学生がいたが,あまりに不自然なのですぐに分かった。剽窃は絶対しないように,きつく注意した。
私としては,この試みで一部の学生の読書習慣の形成に貢献できたように思っているが,授業アンケートの自由記述欄でこの読書活動について触れている人は全くいなかった。授業中にこの読書についてほとんど取り上げなかったため,授業アンケートを回答する際に思い出されなかったのかも知れない。アンケートの設問に設けたら,違った反応があったかもしれないので,今度はそうしてみたいと思う。
授業関連の読書を受講者全員に義務化するという選択肢もあるが,そうすると読書記録における剽窃の問題がさらに重大になり,しかも授業に関連した本が図書館に十分所蔵されていないとなれば,その点での苦情も多くなるであろう。希望者のみという今のやり方をもう少し続けたいと思う。(なお,剽窃の問題は,読書を義務化した場合,読んだ本についてグループで紹介し合うような活動を組み込めば,ある程度は解決できると思う。実際に読まないで口頭で紹介することはなかなか難しいだろうから。)
小テスト
今学期も,「科学の社会史」「科学と技術の社会史」「科学技術と現代社会」の全科目で,Moodleを使った授業サイトの小テスト機能を用いて,オンライン小テストを設置した。今学期は,新たな担当科目である「科学と技術の社会史」で新問題を作成したが,大半が「科学の社会史」と共通なので,それほど負担にはならなかった。
昨年度後期は,小テストの成績を最終的な成績評価の10%(100点満点で10点分)反映させたのだが,今学期は昨年度前期と同様に反映させなかった。授業アンケートによれば,小テストの成績を成績評価に反映させると,それを意識しすぎてしまい,小テストを受けづらく感じる学生がいたようだからだ。しかし,今度は成績評価に反映されないとモチベーションが上がらないといった意見もあり,また実際に小テストを全く受けなかった学生も少なくなかったので,来学期は再度成績評価に反映させようと思う。ただし,前とは異なり,初回受験の成績ではなく,複数回受験した際の最高得点を成績評価に反映させるようにしたい。これだと,何度か受験すればみな満点を取れることになるが,気軽に,しかし確実に受験することを促すための方策としては,こうするのが良いように思う。
学力考査
今学期は,中間学力考査を省略して,期末だけにした。これについては,一発勝負では心理的に不安だという声があった。それはもっともである。また中間考査には,小テストを受験する動機付けの効果もあるだろう(今回,小テストを全く受験しなかった人が多かった原因の一つに中間考査がなかったことがあると思う)。よって,来学期は中間考査を復活させたいと思う。
問題形式は,すべての科目でマークシート式の選択問題を基本とし,記述式の問題を1問出題した。記述式問題の解答は,思ったほど出来が良くなかったので,ほとんどの受講者がそれなりに書けるような問題を考えたい。
振り返りシート
今学期は,振り返りシートを大福帳方式*とし,1枚のシートに全回分書けるようにして,毎回返却と提出を繰り返した。これまで,毎回小さな用紙を配って提出してもらっていたが,人数が多くなるとその用紙の管理に手間と時間がかかった。大福帳方式では,1人1枚なので扱いは楽だ。問題は返却である。今回は,指定席制にして,書いてもらう直前に縦の列ごとに返却することにした。欠席者の分を回収して回る際,回収漏れに気を遣わなければならなかった。これは,授業の最初に,列ごとに取りに来てもらうことで解決できそうだ。
質問については,次の授業の冒頭で質問と回答を書画カメラで投影しながら解説を行った。授業サイトで回答するのと違い,これは比較的手間がかからず,また,受講者からの評判も良かった。
*向後千春(2006.9)大福帳は授業の何を変えたか『日本教育工学会研究報告集』JSET06-5 Pp.23-30
掲示板
今学期も,授業サイトに受講者も書き込める掲示板を設けた。今学期も投稿はほとんどなかった。小テストや読書記録シートなどと同様,授業と切り離した形で学生に利用を促しても,学生は動かないということのようだ。
所見票
授業を担当した6クラスで,第14回の振り返りの回に授業アンケートを実施し,集計結果と自由記述に対して所見を書いた。これらは大学のウェブサイトで学内者に公開される。学外者にも見てもらえるよう,PDF化したものを以下に掲載する。
授業アンケートの集計結果については,ほとんど例年と同じような結果だが,多くの項目で少しだけ評価が上がっているように思われる。値が下がっているのは,授業時間外学習時間だ。授業に関連する読書を促したので,増えても良さそうだが,実際にはどのクラスでも下がってしまった。これは小テストを義務化しなかったことが大きいと思う。
終わりに
授業アンケートの結果を見る限り,現在の授業の進め方に大きな問題はないように思われる。授業と,オンライン小テスト・掲示板・読書記録シートとが密接に関連していない結果,授業時間外の学習を十分に行っていない受講者が一定数いることは問題だが,これは今後折に触れてそれらを授業中に扱っていくことで改善されると思われる。
今学期新たに導入した読書記録シートは,単に教員の話したことをテストでチェックする“telling and testing” pedagogy型の授業を変えるための小さな試みであったが,読書記録シートを見る限り,それなりの成果は上がっているようだ。読書記録を受講者間で読み合ったり,授業中に読んだ本を紹介し合うような活動をすれば,さらに効果は上がるだろう。
ただ,「講義」という形式自体の問題は依然として残っている。その最大の問題は,個々の学生のニーズとは関係なく,一律に決められたペースで授業が進んでいくことである。授業アンケートでは,大半の受講者は授業の進度が自分に合っていたと回答しているが,速すぎる,あるいは遅すぎるという学生も少数ながら存在する。個人に合ったサポートが必要なはずだが,現在の講義ではそれができない。この講義形式の問題を解決する有望な方策として今私が注目しているのは「ブレンディッドラーニング」だ。クリステンセン他『教育×破壊的イノベーション』(翔泳社,2008年)を読んで,自分も試してみたくなった。来学期からすぐにとは行かないが,来年度くらいから試せればと考えている。