’19年度前期 授業の反省

今学期初めてスパイダー討論を取り入れた。改善すべき点は多いものの,思ったよりもうまくいった。

スパイダー討論

今学期の授業の最大の変更点は,スパイダー討論を導入したことだ。スパイダー討論とは,Spider Web Discussion(クモの巣討論)の訳で,討論の様子を表すクモの巣図を書かせるところからその名前が取られている。そのやり方は,アレキシス・ウィギンズ(吉田新一郎訳)『最高の授業——スパイダー討論が教室を変える』(2018)に詳しく書かれている。今学期の私の授業の全てのクラス(科学と技術の社会史,科学技術と現代社会,各3クラス)で,まずはその本に書かれているやり方をできるだけ忠実に実行した1

スパイダー討論を実施した回の授業全体の進め方は以下の通りである。

  1. 今回の授業予定(進行表)の説明
  2. 討論テーマの紹介2
  3. 講義(40分程度)
  4. グループ討論やレポート執筆をうまくやる上でのスキルに関するミニレッスン(10〜20分)
  5. 討論テーマの説明3
  6. ディスカッションレポート用紙に,自分の意見を書かせる(5分)
  7. グループ討論(15分程度)。オブザーバーを1名決めさせ,オブザーバーは討論の間クモの巣図4を書く。
  8. グループ討論に関するグループでの振り返り。教員が提示したルーブリック(ディスカッションレポート用紙の裏に印刷)を用いて,グループ討論を振り返り,採点する。オブザーバーは,クモの巣図を見せながら,第三者の視点でコメントする(5分)
  9. 各自のまとめ。今回の討論から学んだこと,グループ討論の反省などをディスカッションレポート用紙に記入する(5分)

上記の太字の部分が,スパイダー討論に関係する内容だ。毎回30分余りをグループ討論に使ったことになる。

まず率直な感想だが,毎回,学生にとってはかなり難しいと思われるテーマについてそれなりに討論できていたように思う。まったく討論が進まないような班が多数出てきたらやめようと思っていたが,そのような事態になったクラスはなかった。討論の質はまだまだ改善の余地があるが,現状でもかなり効果があったと思う。

他方,一部にほとんど発言できない学生がいたことも確かだ。途中で出てこなくなった学生もそれなりにいたので,この授業についてこられなかった学生が一定数いたとも思われる。ただ,これまでの私の授業では,そのようなことはよくあることであり,放棄率はこれまでの授業よりもやや少ないくらいなので,今のところはあまり気にしなくてもいいと思う。

以下に,先に書いた「スパイダー討論の中間振り返り」とも重複するが,成果と課題を詳しく記す。

成果

  1. グループ討論を繰り返すことで,人前で自分の意見を述べることに対する抵抗感は少なくなっているように思う(次のグラフは,科学技術と現代社会(金2クラス)の第13回授業でのアンケート結果[n=65])。
  2. グループ討論の成果をレポート執筆にある程度活かすこともできている。中間・期末レポート執筆の参考となるよう「レポートのひな形」を配布しているが,そこでグループ討論における他の班員の意見に対して応答する形を示していることもあり,グループ討論の延長としてレポートを書くことがある程度できている。
  3. 受講者の中には,自分の班の討論をどうすればより良いものにできるか悩み,教員に相談しにくる者が出てきた。私の方でまだ十分なサポートができていないが,グループ討論がリーダーシップの育成の機会ともなりうることを予感させられた。

課題

  1. 現在最も痛切に感じている課題は,グループでの振り返りの不十分さである。私としては,最低7分くらいはかけてじっくり振り返って欲しいと思っているが,実際には数分,短い班は2分程度で終わらせている。そのため,振り返りが次のグループ討論の向上にあまり活かされていない。その原因が,アロンソン/パトノー『ジグソー法ってなに?』を読んで分かった。その本では,ジグソー法のグループ活動を行ったあとの振り返りについて書かれているのだが,そこでは,まず個人で振り返り,その後でグループで共有するように言われている。いきなりグループで振り返りをすると,適当な評価で済ませてしまう結果となると書いてあった。まさに私の授業の現状はその通りだ。改善方法としては,まず各自が振り返りを行い,その後で各自の結果をグループで発表しつつ,結果の一覧表を作成させて,それを見た上でグループとしての評価を考えさせるのがいいと思う。また,その回の討論で得られた成果を短くまとめさせて,クラスで発表させてもいいだろう。
  2. グループ討論と意見発表会の違いがまだ良く分かっていない。班によっては,まず順番に全員が自分の意見を発表したあとで,討論に入るのだ。討論時間は限られているのだから,最初の意見発表は省略した方がいいのだが,そう言ってもなかなか直らない。討論とは何かが分かっていない証拠だ。これを改善するには,やはり討論とはどのようなものか,その見本を経験させることが必要だろう。方法としては,グループ討論の台本を用意して,それを用いてロールプレイをすることが考えられる。
  3. チームで協力して良い討論を行うという意識が希薄だ。あからさまに非協力的な態度をとる学生はほとんどいないものの,チームワークを意識している学生も少ない。これを改善するには,アイスブレーキングと呼ばれているようなチーム形成活動を行うことも有効かも知れない。先のアロンソンの本にも,ジグソー法の授業の最初にはチーム形成活動を行うことが書かれている。また,グループ討論の目標が明確でないことも,積極的に協力しようという意欲を高めることにつながっていないように思う。グループ討論の目標は,新たな発見や理解の深化であり,それはルーブリックの項目にも上げてあるが,曖昧な形で「達成した」とされていることが多いように見受けられる。それを改善するには,先に挙げたとおりクラス発表が有効だろう。
  4. リーダーシップをとる学生がいない。特定のリーダーをきめなくても,班員全員が協力的であれば,グループ討論はうまく行くはずである。しかし,協力的な学生が少ない班ではリーダーが必要だ。そのような状況においては,誰かがリーダーシップをとることが望まれるが,そのような学生がいない班が少なくない。リーダーという役割を設けるとよいかもしれない。
  5. 討論時間が足らない。最低15分はとりたいと思っていたが,講義が長引いたりすると,12分くらいに短くなってしまう場合もあった。いつも討論が盛り上がってきた頃に終了となってしまうので,できれば20分くらいはとりたいものだ。そのためには,毎回の講義のあとにグループ討論を行うという現在のやり方では難しい。グループでの振り返りに7分程度とるとなれば,なおさらだろう。講義の回と討論の回を分ける必要があるだろう。

ディスカッションレポート

討論テーマを与えて,すぐに討論を始めさせても,すぐに意見を言える学生はほとんどいないだろう。そこで,5分程度時間を与えて,自分の考えをまとめ,紙に書くようにさせた。これは前掲書『最高の授業』に出ていた方法である。私は,同じ紙に,討論で出された他者の考えをメモする欄と,討論で得られた成果を書く欄,さらに討論の自己評価を書く欄を設けて,それをディスカッションレポートと呼んだ。

これは,毎回の授業の最後に回収し,次の回に返却した。提出・返却は,班ごとに用意したクリアファイルを介して行った。これはほぼうまく行った5

ディスカッションレポートは,中間・期末レポートを執筆する際の資料として活用してもらうために返却しているのだが,期末レポート提出後,まとめて提出させて,成績評価に利用する。

ミニレッスン

昨年度後期にワークショップ形式の授業をした際,読書や執筆のスキルに関する短い講義(ミニレッスン)を行った6。それを今学期の授業にも取り入れた。十分な時間が取れなかったこともあり,効果は限定的だったと思う。もう少し時間をとって,しっかり行いたいと思う。各回のミニレッスンの内容は以下の通り。

第2回 スパイダー討論の進め方
第3回 議論の積み上げ方
第4回 「応答」としての議論
第5回 レポートにおけるThey Say / I Say
第6回 中間レポートについて
第8回 口頭の議論で注意すべきこと
第9回 反論を想定して,レポートに組み込む
第10回 引用や要約を組み込む
第11回 出典の表し方
第12回 期末レポートについて

They Say / I Say

グループ討論(口頭)とレポート(文章)での議論の仕方を,Graff/Birkenstein, They Say / I Say (4th ed. 2018)を参考にして教えた。そのポイントは次の二つ:(1)自分の意見を言う/書くときは,必ず誰かの意見(They Say)に対する応答(I Say)として行うようにさせ,学術的会話に参加するという意識を持たせる。(2)議論のための具体的な言い回し(ひな形,テンプレート)を学生に示す(They Say/ I Say自体が一つのテンプレート)。

口頭での討論でこれが徹底されたかというと,非常に心許ない。一応,ルーブリックの項目には入れておいたが,身につくまでにはいかなかったようだ。レポートでは,ひな形を示したこともあり,ほとんどの学生がその形式を取り入れていた。

WebClass

今学期,初めて大学が用意している学習支援システム(LMS)WebClassを用いて授業サイトを構築した。これまでは,レンタルサーバーを利用して,独自の授業サイトを構築していたが,大学全体でWebClass利用の機運が高まってきたこともあり,試しに使ってみたのである。

授業サイトに掲載したコンテンツは以下の通り。

  1. 各回授業資料
    1. 授業スライド
    2. ディスカッションレポート用紙(討論テーマを掲載)
    3. 参考文献リスト
    4. 授業で配布した資料
  2. 各班のクモの巣図およびルーブリックによる評価結果
  3. 中間・期末レポート(Wordファイル送信機能あり)
  4. They Say / I Say 中間レポート編(教員が選んだ中間レポートを匿名で掲載)
  5. 信頼できる資料の探し方
  6. 過去の授業で学生が読んだ本のリスト

以前に構築した授業サイトは,受講者同士の交流機能もあったが,今回は基本的に教員と受講者個人との間の情報のやりとりに限定した。レポートの送信を除くと,授業サイト掲載情報を利用しているのは受講者の約半分といった感じだ。

WebClassのコンテンツは,クラス毎に,またカリキュラム毎(新カリクラス用,旧カリクラス用)に作らなければならないため,コンテンツの内容は2種類しかないのに,たくさんのサイトを構築しなければならず面倒だ。サイト間でコピーやリンクを張る機能があるので,多少は楽になっているが,それでも面倒だ。しかし,登録などの手続きなしに学生がすぐに使えて,他の科目と同じ使い勝手で使えるのは学生にとって利便性が高いと思い,来学期以降もWebClassを使ってみようと思っている。

授業アンケート結果

授業アンケート集計結果および所見は別に詳しくまとめたが,ここではクラス毎の項目別平均値をまとめておく。ほとんどが4以上なので,大きな問題はないと思われる。

大まかな傾向としては,授業時間外学習時間(問2)は科史の方が長く,理解・習得(問9)や興味・関心(問10)は科現の方が高い。また,回答率も科現の方が高い。この結果の解釈は難しいが,一つの解釈としては,科史の方が興味を持ちにくく,理解にも時間がかかり,レポート作成などにも多くの時間を要したのではないかと考えられる。ただ,科史の方が授業時間外学習時間が長いのは,回答率が低いため,つまり,比較的まじめな学生が回答し,それらの学生は授業時間外学習時間が相対的に長かったということがあるかも知れない。まじめということは,興味がなくても無理して勉強する可能性も高く,そのため興味・関心が低く出ているということかもしれない。いずれにせよ,科現よりも科史に内容面で改善すべき点が多いということは言えると思う。

科現水3クラスは,教材(問6),理解・習得(問9),興味・関心(問10)の3項目で4未満となっているが,このクラスは回答者の約26%がシラバスを「読んでいない,覚えていない」と答えている。今学期は,初回ガイダンスで全員にシラバスを配布し,その場で読ませているので,その回答をした受講者は,初回ガイダンスは欠席した可能性が高い。したがって,この科目と学生のニーズのマッチングがうまく行っていなかったかもしれないと考えられる。

なお,シラバス未読率が低いと興味・関心(問10)が高い傾向があり,改めてシラバスの重要性を認識した。

科史(月2) 科史(金1) 科史(土4) 科現(水3) 科現(金2) 科現(土3)
問1(出席率 4.42 4.17 4.35 4.50 4.48 4.25
問2(授業時間外学習時間 2.52 2.26 2.40 2.12 2.03 2.17
問3(科目の目的・目標 4.58 4.37 4.65 4.47 4.66 4.17
問4(理解度・習熟度の把握 4.27 4.23 4.25 4.03 4.32 4.58
問5(教え方 4.18 3.86 4.50 4.05 4.37 4.50
問6(教材 4.15 4.11 4.40 3.90 4.48 4.50
問7(意欲喚起 4.15 4.06 4.30 4.14 4.32 4.25
問8(成績評価法 4.27 4.20 4.55 4.28 4.68 4.67
問9(理解・習得 4.24 4.09 4.15 3.97 4.38 4.67
問10(興味・関心 3.97 4.14 3.85 3.79 4.37 4.25
回答率 55.0% 43.8% 41.7% 62.5% 75.0% 48.0%
シラバス未読率 21.2% 14.3% 15.0% 25.9% 6.7% 0%

  1. その本に書かれているのと大きく異なる点は,討論グループの数とサイズ,それにクモの巣図を書く人である。推奨されているのは,1クラス1グループで人数は十数名。クモの巣図を書くのは教員である。少人数クラスであればそれも可能だったが,今学期の受講者数は1クラス25名〜89名であり,班は複数作らざるを得なかった。そうすると教員がクモの巣図を書くこともできないため,毎回討論には加わらずにクモの巣図を書くオブザーバーという役割を作った。なお,1班の参加者が3〜4名の場合は,オブザーバーも発言可とした。
  2. 学期の途中で,討論テーマは講義の前に教えて欲しいという学生からの要望を取り入れて実施。討論テーマを知った上で講義を聴いた方が,講義内容をより良く討論に活かせるだろう。当初は,学生が予習をしてくるので,討論テーマはあらかじめ承知していると思っていたが,実際には予習をしてこない学生がほとんどであった。
  3. 遅れてくる受講者いるため,講義の前に知らせたことを繰り返す必要がある。
  4. クモの巣図用紙には,班のメンバーを円の上にプロットし,発言順に発言者の点を線で結んでいくと,クモの巣のような図ができる。討論後にこれを見ると,発言の偏りが一目瞭然となる。
  5. 1回だけ,ある班のレポート数枚が紛失してしまったことがあった。それ以降,授業が終わって私が教室を出る際には,ディスカッションレポート用紙が残されていないかどうか,確認するようにしている。
  6. こちらに一覧あり