2010年を振り返る(2) C-Learning

 大学教育にiPhoneを活用する事例を検索する中で,すべての学生と教員にiPhoneを配布した青山学院大学社会情報学部の事例に出会った。そこでは,iPhoneでも活用できる学習支援システム(LMS)としてC-Learningが利用されているという。しかも,もともとこのシステムは携帯電話用だったのだが,青学からの働きかけですぐにiPhoneへの対応がなされたという。

 私は,携帯電話とiPhoneの両方に対応できるこのLMSに大変関心を持ち,サービス提供会社ネットマンが発行していた雑誌『月刊C-Learning』のバックナンバーを取り寄せた(1月21日到着)。残念ながらこの雑誌は2009年5月号を最後に休刊となっているとのことだったが,この雑誌で多くの先生方の実践例を知り,試してみる価値があると感じた。ネットマンは当初,C-Learningの実践例を自社発行の月刊誌をメディアとして利用者間に共有させようと考えていたようだが,それよりも利用者による研究会を組織して,直接交流を図った方がいいと考えたのか,雑誌休刊後は「ケータイ活用教育研究会」が情報交換の場となっている。サービス提供会社が利用者の交流をバックアップするという形は,企業による新たなサポートの形として大変新鮮に感じた。さらに,その研究会の様子はUstreamでも配信され,私は1月23日に開催された第10回研究会の模様をネット経由で視聴した。これも新たな経験だった。しかし,今年の初めの時点では,利用料金が個人研究費で払える額を超えており,4月の新学期からの利用はやむなく諦めた。その後は,何とか無料で提供されているMoodleやNetcommonsなどのシステムを使ってケータイを活用することをめざしたが,すぐには実現できないでいた。

 今年9月になり,何気なくC-Learningのサイトをのぞいていたら,比較的低料金で利用でき,しかも最初の1か月は無料で試用できることを知った。そこで,早速後期の「科学技術コミュニケーション」の授業にC-Learningを導入してみることにした。もし問題があれば,1か月でやめるつもりでいたが,特に問題がなかったため,継続して使用することにした。個人向けサービスの料金は,ID基本利用料(1000円/月)と1講義利用料(1000円/月)の半年分で12000円だった。もし年間4科目で利用するとすると,96000円ということで,研究費のかなりの部分を占めてしまう。やはり本格的に導入するには組織単位ということになるだろう。

 さて,C-Learningには10もの様々な機能があり,それらを工夫して利用すれば,かなりのことができる可能性があると感じた。その活用のノウハウは上記の通り利用者間で共有されつつあり,いずれノウハウ集のようなものをまとめてもらえば,このシステムは広く普及すると思われる。私が使った機能は以下の通りである。

  • 出席:毎回の授業の最初に出欠を確認する。確認キーという数字を伝えるので,教室外から出席を偽装することはしにくくなっている。
  • アンケート:毎回の授業の最後に,授業の分かりやすさ(4段階評価)と授業に関する感想や質問を答えてもらった。リアルタイムで集計ができるので,授業の途中で利用するとより効果的だとは思うのだが,まだそのような利用法ができていない。これまで授業の最後に紙に書いてもらっていた感想文の代わりとして利用している。また,提出期限をその日の夜10時と少し延ばした上で,多少考える必要のある課題を毎回課した。これらの回答は,翌週の冒頭で紹介した。回答をパソコンに表示し,プロジェクターで学生に示すことができるので,大変便利であった。数値データは棒グラフで表示され,直感的に分かりやすい。(回答結果表示の例
  • レポート:学期中に2回ほど,レポートを課し,その提出にこの機能を使った。教員はそこにアップロードされたワードファイルのレポートを一括ダウンロードして読むことができる。また,その評価結果やコメントをオンラインで各学生に伝えることができる。これも,紙の形でやり取りする場合に比べ,非常に便利だった。
  • 教材倉庫:これは,各回の授業に関連する情報(テキストデータ,ウェブリンク,PDFファイルなど)を掲載し,学生が見ることができるというもので,授業の途中まではこれを利用した。平行して,従来の授業サイトにも情報を掲載した。この二度手間が非常にわずらわしく,結局教材倉庫の方は途中でやめてしまった。なぜ,教材倉庫一本にしなかったかというと,思うような教材提示ができなかったからである。
  • 掲示板:教員から学生への連絡や学生からの質問受け付けのために,掲示板を設置したが,ほとんど利用されなかった。特に,学生からの質問はいっさいなかった。授業中に利用する工夫が必要だっただろう。
  • 相談室:学生から教員への一対一の問い合わせに使う機能で,一度だけ学生から質問が来た。
  • ニュース:ログインして科目のトップページにアクセスすると表示される電光掲示板形式のニュース表示機能で,新たな情報の掲載時などに連絡用として利用した。

 これらの他に,小テストやドリルといったテスト機能があり,これも基礎知識の定着のために活用したかったのだが,今回はそこまで手が回らなかった。授業中や授業外の予習・復習にそうした機能を使わせるようにできれば,さらに効果が上がっただろう。今後の課題である。

 さて,C-Learningは全体的に見てかなり使えるシステムで,今後も使っていきたいが,問題は上記の通り教材提示機能である。教材提示をケータイ向けに行うのはやはりかなり無理があるように思う。オンラインでの教材提示で学生が使う機器としてはパソコンかiPad(または同等のタブレット型パソコン)が良いのではないだろうか。双方向コミュニケーションはケータイで,教員からの一方的な情報提供はパソコンで,というように使い分けた方が良いように思う。もちろん,パソコンがあれば双方向コミュニケーションもできるので,パソコンだけでもよいのだが,今の学生はパソコンよりもケータイの方が身近なので,ケータイを使うことにメリットはあるだろう。実際,今学期の授業でもC-Learningを利用する機器としてケータイとパソコンはほぼ半々だった。ちなみに,iPhone, iPad, iPod touchの利用者はいずれもゼロだった。

【天気】曇り。