100分授業

4年前の記事の最後に次のように書いた。

15回確保問題は,(1単位当たり)15時間確保問題として続いていくことになる。

まさにこれが現実のものとなっている。

半期で15回の授業を確保するために,本学でも祝日まで授業をやっているが,これはやはり問題だと言うことで,何とか回数を減らして祝日は休めるようにしようという動きだ。

その方策は,1回当たりの授業時間を増やして,1単位当たりの授業時間15時間,2単位科目であれば30時間を確保できるようにするとことだ。例えば,1コマ100分にすると次のような計算になる。

  1. 90分で2時間としているので,100分は,2.22時間。
  2. 1コマ100分の授業を14回すると,2.22×14=31.08(時間)。
  3. 2単位で30時間の授業時間を確保しているのでOK!

100分授業を導入する大学は増えつつある。

しかし,各回の授業を10分長くすることと1回分の授業が等価ということがあるだろうか。90分の授業に対して10分という時間は言ってみれば誤差の範囲だ。10分長くなったからといって,新しい内容を扱える場合は少ないだろう。多くの場合,これまでの内容をより丁寧に扱える程度である(例題を1問増やすとか,説明の事例を1つ増やす程度)。つまり,1回の授業が減った分,教える内容が減るということである。

授業時間を確保するという目的で行ったことが,実際には教育内容の減少につながっているという矛盾がここにある。さらに,100分授業で時間割を組むことによる様々な弊害(例えば,1日の授業が終わる時間が遅くなるなど)を考えると,全体的に見て,果たして教育の改善になっているのか極めて疑問だ。

単位制度が形骸化していることの最大の問題は,1単位当たり45時間の学習時間が確保されていないことである。授業時間を確保することはその問題の一部に過ぎない。より問題なのは,自習時間の確保である。

1単位45時間,2単位で90時間の学習時間(授業時間+自習時間)を確保する必要がある。講義であれば,そのうちの1/3,つまり2単位なら30時間が授業時間だ。100分授業14回でこれは何とか確保できるだろう。では,残りの自習時間60時間(2単位の場合)はどうなるのか。14週なので,1週当たり60/14=4.29(時間)となる。私のいるところでは,半期24単位まで取れるので,すべて2単位科目の講義とすると12科目で,週当たり自習時間の合計は4.29×12=51.48(時間)となる。実際には1時間=45分(3/4時間)なので,51.48×3/4=38.61(時間)。週5日とすると,1日7.22時間自習する必要がある。毎日2〜3コマの授業に出て,これだけ自習することは不可能と言っていいだろう。

なぜ,このようなおかしなことになっているのか。その原因は,一言で言えば,過剰履修である。そもそも単位制度の趣旨に則れば,半期に履修する単位は15単位なのである。2単位科目を標準とすれば,8科目16単位である。これならば,自習時間の合計は4.29×8=34.32(時間)。実際には,34.32×3/4=25.74(時間)。週5日とすると,1日5.15時間となる。これでも多いように見えるが,授業は1日に1〜2コマしかないので,十分実現可能だ。

履修科目をこれまでの2/3に減らす。このような方策をとると,学生の学習内容が減ってしまうのではないかと心配する人もいるだろう。上記では,学生が授業の2倍の時間,自習をするということが前提である。もし学生がそれをサボれば,学習時間は当然減少する。

であるならば,2単位90時間の学習の内訳の授業と授業外を逆転させて,60時間の授業と30時間の自習としてはどうだろうか。そうすれば,8科目16単位の場合,週16コマの授業(1日3コマ程度)と1日2.57時間の自習となる。これも学生の側では実現可能であろう。問題は,2単位科目で週2コマの授業をしなければならない教員側・大学側にある。当然,教員数を増やす必要が出てくる。単純計算では,人件費が2倍になる。しかし,学生はこれまでの2/3の単位(科目)しか取らないのだから,2x(2/3)=1.33(倍),つまり3割増程度だ。

人件費3割増。これは経営的に苦しいほとんどの大学では実現不可能であろう。では,教員を増やさずにいかにして学生の学習を実現するか。ここが,いま考えなければならない問題のポイントとなるはずだ。方法はいろいろとあるだろう。たとえば,グループで学習させ,院生のチューターを付ける。ビデオやテキストと小テストを組み合わせた自習用オンライン教材で学ばせる。受講者を教室定員の2倍受け入れるオンライン双方向授業を行う。などなど。

100分授業を導入し,時間割を変更しておしまい,では何の解決にもならない。

参考:仲井邦佳「大学の単位制度と学年歴——『1単位=45時間』と『1科目=1350分説(15週論)』」『立命館産業社会論集』第51巻第4号(2016年3月)1-11頁。

  1. 2018.2.11追記。