杉山滋郎『「軍事研究」の戦後史——科学者はどう向き合ってきたか』ミネルヴァ書房,2017年,298頁。
2017年2月13日読了。
できればもう少し早く出版されれば良かったと思う(1/20刊)。学術会議の「安全保障と学術に関する検討委員会」での議論により反映されたと考えられるからだ。しかし,杉山さんの文章は,第3回(8/24)に小林傳司委員によって資料として提出され,第4回(9/30)では杉山さんが参考人として意見を述べているので,ある程度は反映されているのだが。
現在,学術会議では,1950年と1967年の「戦争目的の研究拒否」声明をどうするかが議論されている。ともすると,これまでの戦争拒否を覆すのか,といった形で批判されたり,警戒されたりすることが多いが,杉山さんの本では,これまでも決して学界全体が戦争拒否でまとまっていたわけではないことが具体的な事実によって示されている。
これまでにあった様々な議論の上に,現在の議論を重ねていく必要があり,本来,学術会議の検討委員会はこの本に書かれていることをベースにして議論を始めるべきであった。
この本は,一定の立場に立って,軍事研究は絶対拒否すべきであるとか,軍事研究は容認されるべきであるとか,主張しているものではない。歴史的な素材をいろいろと提供して,その上で,この問題の考え方を示している。したがって,何らかの明確な解答を求めている人には物足りない感じがするかもしれない。しかし,この問題は戦後ずっと議論されていて,未だにすっきりした解答が出ていない問題だ。じっくり腰を据えて考える必要がある。
私の考えは,基本的に杉山さんの考えと同じだと思う。私なりにそのもっとも重要な部分を抜き出すとすると,次の文言を取り上げたい。
けっきょく,かりに自衛のための軍事研究をよしとしたいなら,まずは安全保障のあり方について議論を深めることから始めなければならないのだ。(236頁)
これは,現在の学術会議会長が言うように,自衛のための科学研究は認めてもいいのではないか,という議論について検討した節の中にある。私はさらに,自衛のための軍事研究を否定する場合も同じだと考える。この問題を議論するには,安全保障のあり方についての議論を抜きにしては結論が出ないのだ。
本書は,タイトルにあるとおり,戦後史がメインである。しかし,第1章で「『軍事研究』前史」として,欧米と日本の科学者の戦時中の考え方と行動がごく簡単に紹介されている。この本は戦後史の本なので,無い物ねだりになってしまうが,戦時中の体験が戦後の科学者の意識をかなり規定したと思うので,そこはもっときちんと追っておく必要があると感じた。これは私の専門領域に入ってくるので,自分の課題として考えたい。