秘話 陸軍登戸研究所の青春

新多昭二『秘話 陸軍登戸研究所の青春』講談社文庫,2004年,289頁。

2017年1月6日読了。

1944年に京都帝国大学の電気工学教室で戦時研究要員の速成教育を受けた後,終戦の年に陸軍の秘密研究所であった登戸研究所に赴任し,ごく短期間働いたという貴重な経験を持つ技術者の自伝。著者は,名前(昭二)からも分かるように,昭和2年(1927)年生まれ。タイトルにある陸軍登戸研究所での体験は,全体の一部であり,本書では中学に入学した1939年から1994年までの著者の体験が各時代の出来事・世相とともに生き生きと描かれている。

帝国大学での戦時研究要員速成教育という制度については初耳だったので,歴史家として大変興味を持った。1944年から終戦までの資料は,その多くが廃棄(焼却)されたため,まだよく分かっていないことが多いのだ。こうした当事者の手記は研究の重要な手掛かりになる。

ただ,こうした手記を読むときに注意しなければならないのは,その記述が信頼できるものかどうか常に気を付けなければならないということだ。本書の場合,その場で見ているような臨場感のある文章であるため,特にそうした注意深さが要求される。学生に本書を読ませるとしたら,そうした注意を十分にする必要があるだろう。

なお,本書のもとになっているのは,パソコン通信(ニフティサーブ)のフォーラムに1997年に書かれたもの。後に,著者のウェブサイトにも掲載された(現在は廃止されている)。

参考:吉田耀子「元・陸軍登戸研究所員は73歳のIT老人 パソコン通信で若者に語り継ぐ『戦争秘話』」『現代』34巻11号(2000.11): 136-144