2010年を振り返る(12) 今年はまった人々

若い頃はいろいろな人の書いたものに影響を受けたものだが,40代後半ともなると感性が鈍磨してくるのか,影響を受けることが少なくなっていた。しかし,今年は違った。デジタルネイティブを総合演習のテーマに設定し,その勉強を始めた秋以降,これまでになく特定の著者の本を集中的に読んだ。その著者とは,梅田望夫さんである。

梅田さんは2006年の『ウェブ進化論』で有名だが,その当時は全く関心がなかった。しかし,梅田さんが今年,飯吉透さんと共著で出版した『ウェブで学ぶ』はデジタルネイティブに最適化された大学教育を考える上で避けて通ることはできないだろうと思い読んだ。それ以降,梅田さんの著書を探しては次々と読んでいった。

その中で最も印象深かった言葉は,梅田さんが茂木健一郎さんと共著で2007年に出した『フューチャリスト宣言』にある。少し引用しておこう。

梅田 仮にその大学(梅田さんに教員になって欲しいと言ってきた大学のこと)が日本の一流大学であっても,そのクラスで僕の授業を聴きに来る五〇人よりも,もっと直接的に僕の話を聴くことを熱望してくれる人が,ネットでは集まってきます。僕があるエネルギーを込めて書いたら,どのくらいの人がちゃんと見に来てくれて反応が返ってくるかというのは,インターネットで四年もブログを書いていればわかります。……大学でイヤイヤ教室に来る学生と付き合っている時間はない,という気持ちも持っています。……
茂木 たとえば大学の授業を音声録音して,ネットで公開するなんていうことはいかがですか。
梅田 ヌルいわけですよ。教室というその場にいて,一時間半,古いフォーマットで講義して,古いフォーマットで録音するわけでしょう。……そうではなくて,リアルタイムに,ブログとユーチューブとこれから生まれる新しいサービスも組み合わせる。「ここはしゃべろう」と思ったら音声や映像を撮ってユーチューブに上げる,という感じで,一日で教材がドーンとできるわけですよ。それを見る人はどんな時間にも勉強できる。……
茂木 大学というシステムが終わっていることは体感でわかるんですよ。つまり,クラスルームに行って講義するまではいいのですが,その後宿題を出して,レポートや試験の採点をして成績をつけるという一連のプロセスがまったくナンセンス。学生の時は意味があると思っていたけれど……。
梅田 僕は学生のころ,最後まで良い成績を取ろうと考えていたんだけれど,あるとき,これには何の意味があるんだろうと思い始めた。でもきっと何か意味があるんだろうと思って最後までがんばったんですが,結局意味はなかったですね。
茂木 おそらく教える側からしても,まったく意味がないと思いますよ。本音を言えばしょうがないからやっているんでしょう。……(97-100頁,下線は引用者)

私がもやもや考えていたことをはっきり言葉にしてもらえてすっきりした。本書を読んでから,明確に新しい教育のあり方を模索し始めている。

その新しい教育のイメージを具体的に実験して示してくれたのが,ソフト会社デジタルステージ社長の平野友康さんだ。Ustreamをあれこれ見ているなかで,「ウェブコンポーザー学校」に出会った。最初は,本当の学校かと思ったが,これは同社の新作ソフトBiND4を売り出す前のプロモーションだった。しかし,それは単なる商品宣伝番組ではなく,明確に新しい教育のあり方を模索するものでもあったのだ。そして,その新しい教育を実現するためのソフト作りも,同社の基本的な計画に入っているという。そうしたことが,今年平野さんがUstで配信した膨大な番組のアーカイブを見まくり,2007年に刊行された平野さんの著書『旅する会社』を読んでわかった。平野さんは最近,坂本龍一さんのコンサートのUstなど,音楽関係に重心を置いているが,いずれ教育にも戻ってきてくれることだろう。それを来年に期待したい。

【天気】晴れ。比較的暖かい穏やかな冬の日。センター試験監督説明会。