今後の授業に向けて

読書・執筆ワークショップの試みは挫折した。しかし,新たな見通しに希望を見出しつつある。今学期の授業にも取り入れた”They Say / I Say”の考え方だ。

いま考えている理想的な授業形態は次のようなものだ。

  1. 教員によるテキスト(その回に扱うテーマについた書かれた文章。あらかじめ読んでくるように学生には言う)の内容の簡単な説明と補足(ビデオ視聴なども)
  2. 教員によるミニレッスン(議論の言い回しに関する解説。書き言葉と話し言葉の両方で)
  3. 各自,テキストをめぐるディスカッションのために自分の考えをまとめる(紙に書かせる)
  4. グループでディスカッション(スパイダー討論
  5. グループでディスカッションの振り返り
  6. 各自,ディスカッションを受けて,自分の考えを再度まとめる

この授業運営法は,読書・執筆ワークショップの失敗を踏まえている。ワークショップ形式を試してはっきりしたことは,受講者が二分されてしまうことだった。その方式について行ける人と行けない人にである。成績も両極端になったし,何より放棄者が多数出てしまった。つまり,ついて行けない多くの受講者が脱落したのだ。その原因は,学びに関する責任の移行がうまく行かなかったことだと思われる。いきなり重い責任を負わされた学生は自力で学びを進められなかったのだろう。上記の授業方法は教員および仲間のサポートの中で学びを進められる。

この授業で重視したいのが,”They Say / I Say”の考え方だ。これは,GraffとBirkensteinが著書They Say / I Say (第4版は2018年刊)1で強調しているものである。執筆の際,他者の考え(They Say)を要約した上で,自分の考え(I Say)を主張することが大事だという考えは,研究者の間では「先行研究批判」ということで常識になっていること。したがって,その考え方自体は何も新しくはないが,それを大学での執筆(および口頭での討論)の基本に据え,しかもそのための言い回しをテンプレートで示すところが新しい。本のタイトル”They Say / I Say”自体が一つのテンプレートになっている。

GraffとBirkensteinは,まともな議論が成り立たなくなっているアメリカ(これは日本も同じ)で,何とか学生たちに議論のできる人になってもらおうと格闘しているように思える。私も大学の教員としてその問題意識を共有している。知識を伝授する授業から,口頭および文章で議論ができる人を育てる授業へと舵を切る必要がある。そのための方法は上記の通り見通しはついた。あとは,どのようなテキストを選ぶか,あるいは自分で書くかだ。

「科学技術と現代社会」のテキストの候補は,金森修・塚原東吾編『リーディングス戦後日本の思想水脈2 科学技術をめぐる抗争』(岩波書店,2016年)だ。学生には難しいかもしれないが,イメージとしてはこのようなものが考えられる。

「科学と技術の社会史」のためのテキスト候補はまだ見つかっていない。科学史・技術史の分野でのリーディングスやアンソロジーは日本ではまだ少ないように思う。まずは英語文献で探してみるか。

【天気】曇りのち晴れ。

  1. They Say / I Say は,リーディングがついた版もある。それぞれのリーディングの後には,いくつかの問いや指示があり,内容理解を深めたり,議論の仕方を学んだり,自分の考えをまとめたりするのに役立つものとなっている。