『ネオ・デジタルネイティブの誕生』

橋元良明ほか『ネオ・デジタルネイティブの誕生——日本独自の進化を遂げるネット世代』ダイヤモンド社,2010年,189頁,本体1500円。

昨日から読み始めて,今日読み終わりました。昨日読了した『デジタルネイティブの時代』よりもかなり有用な本でした。この本はお薦めです。

本書は,東大教授の橋元氏と広告代理店の電通の3年間にわたる共同研究の成果です。きちんとした調査データをもとにして分析がなされており,説得力があります。以下,目に付いた点を紹介します。

まず,本書では「ネオ・デジタルネイティブ」という新しい世代を問題にしています。つまり,「デジタルネイティブ」の次の世代が生まれてきているということを指摘しています。そこで,それぞれの世代の定義と特徴付けを紹介します。

デジタルネイティブ:1976年〜1990年代前半生まれ(76世代と86世代)
・パソコン・ゲーム・ケータイ・インターネットのある環境で生まれ育った世代
・インターネットの利用はパソコンから始める
・パソコンで書く
・ケータイは音声通話よりメールの利用中心
・就職活動期にバブル崩壊後の不況を経験
・自分流を大事に
・ネットは世界につながる手段
・現在30代のIT起業家(Hatena, mixi, GREE, 2ちゃんねるの創業者たちなど)の世代

ネオ・デジタルネイティブ:1986年以降,特に1996年以降生まれ(86世代と96世代)
・インターネットの利用はケータイから始める
・ケータイで書くことは普通。パソコンはむしろ苦手
・ケータイは音声通話とメールの両方
・ケータイで動画を楽しむ(家でも外でも)
・ネットは身近な人とのコミュニケーション手段
・他人との調和を大切にする

『デジタルネイティブの時代』の著者・木下晃伸氏は1976年生まれで,上記の定義によるとデジタルネイティブ世代に属しますが,本人は自分はデジタルネイティブではなく,自分より若い世代(平成生まれ,つまり上記のネオ・デジタルネイティブ)をデジタルネイティブと言っています。それは,パソコンからネット環境に入っていった自分と,ケータイから入っていった下の世代の違いに注目した捉え方といっていいでしょう。しかし,76世代も,それ以前の世代と比べれば,パソコン・ゲーム・ケータイ・インターネットのどれについて親和性は強く,デジタルネイティブといっていいと思われますし,実際一般的な捉え方はそのようになっています。

さて,現在の大学生(20歳前後)は,上記の定義によると,おおむねネオ・デジタルネイティブと言えるのではないでしょうか。その世代で,ケータイと映像が重要なことは,本書でも木下氏の著書と同じように強調されています。

そして,本書の最後の章では,ネオ・デジタルネイティブとうまくつきあうためのツボが紹介されていますが,それは以下の5つです。
・「主人公願望」のツボ
・「オンタイム」のツボ
・「動画ランカレンシー」のツボ(動画をネタとして使う)
・「頑張らない」ツボ
・「モバイル」のツボ

本書の考察によれば,デジタルネイティブと言われている世代でも,かなり異なる2種類のタイプがあるということでしょう。私のようなデジタル移民にとって,デジタルネイティブ的であることは何とか可能ですが,ネオ・デジタルネイティブ的になることはおそらく不可能です。しかし,これから大学に入学してくる学生は,全員がネオ・デジタルネイティブであることを,私のような教員は覚悟しなければなりません。

これまで読んできた本から得られた知見をもとにすると,今後の大学教育では,ケータイサイトを充実させることがまず第一歩でしょう。また,動画の活用も欠かせません。その他にも,文字や声よりも映像,一直線的な進行よりもランダムなアクセス(手っ取り早く知りたい),同時に複数の情報を処理(例えば,音楽がかかっていた方がはかどる,など)といった好みを知って,それに対応することはより学習効果を高めるのではないでしょうか。

以上,『ネオ・デジタルネイティブの誕生』という本の紹介と私のコメントを書きましたが,メンバーのみなさんはどう感じましたか? できれば,本書を読んだ感想を聞かせてもらいたいです。