最低限の教育

 昨年アメリカの大学に就職した日本人技術史家が、あるニュースレターに書いていたことが印象に残った。多くの先輩のアドバイスによると、昇進に必要なことは次のようなことだというのだ。Excellent publications, adequate administration, minimum teaching(卓越した著作、ほどほどの管理運営、最低限の教育)。要するに、教育や管理運営にエネルギーを割くことは昇進には役立たないので、研究に精を出せ、ということだ。Publish or perish(研究成果を公表しないと死ぬ)という言葉はよく知られているが、類似の精神だ。競争社会のアメリカで生き残るための処世術である。
 アメリカで発達したFDなども、激烈な業績競争の副産物と考えられる。というのも、アメリカの教員は放っておけば研究ばかりして、教育をおろそかにしてしまうからだ。そこで、最低限の教育のレベルをそれなりに維持するために、さまざまな制度を発達させ、ある程度の教育をするよう教員に強制したのである。しかし、その制度に過度に適応して教育熱心になり、研究をおろそかにすると、昇進はできない。バランス感覚が必要で、それを表現したのが先のアドバイスということだろう。

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