教授法・教材・学習活動
東京電機大学 工学部・未来科学部 人間科学科目
2014年度前期「科学技術と現代社会」
教授法
本科目では,主に「授業SNSを用いた協調学習統合型講義」という教授法を採用する。これは,スライドやビデオを見せながら教員が行う講義と,授業SNSを用いた協調学習を統合したもので,受講者は教員の講義を聴きながら,あるいはビデオを視聴しながら,授業SNSで流れるタイムライン(一連の書き込み)を読んだり,ツイート(短い書き込み)を投稿したりする。ツイートにはコメントを付けることができ,コメントの連鎖はスレッドの形で表示される。
2013年度後期には,講義でスライドを見せる際に,スライドの横にタイムラインが見えるようにしてスクリーンに投影した。また,その画面を録画して受講者に提供した。その映像は授業SNSを用いた講義の様子を知る上で参考になると思われるので,一例を以下に掲げる(動画右下のYouTubeというロゴマークをクリックすると別ウィンドウで拡大表示)。ちなみに,2014年度の授業ビデオにはタイムラインは含めていない(全クラス共通とするため)。
このような教授法を導入するに至った背景は以下の通りである。
2005年度から現在の勤務校で主に科学史関係の教養科目を担当しているが,人文社会系の教養科目でよくある一方通行的な講義では,学生に講義内容に興味を持ってもらい,しかも主体的な学びを促すことは極めて難しいと感じていた。他方,数年前から新たなネットサービスやデジタル機器が急速に普及しはじめ,こうした現代的なツールを授業の活性化のために使えないかと考えはじめた。
最近では,同じテレビ番組を見ながら,多くの視聴者がTwitterで意見交換したり,Ustreamの中継を見ながら,視聴者がソーシャルストリーム(Ustream画面横のコメント欄)で意見交換したりするのは珍しくないが,これと同じようなことを講義でできないだろうかと考えた。もちろん,対面の講義ではネットを使わなくても授業参加者は直接対話することができるのだが,私の講義の授業では,自発的に発言する学生はほとんどいない。しかし,デジタルネイティブとも言われる現代の学生はネット上でなら,授業中でも発言することがあるのではないか。そのような考えから,2011年度に授業SNSを授業に導入してみたのである。
参考:なぜ共同受講ブログなのか?(pdf)(この文書は,当初私が授業SNSのようなものをどのようなことから考えついたのかを記している。なお,当初は新たに導入したシステムのことを「共同受講ブログ」と呼んでいた。)
その結果は,当初の予想を上回るものがあった。講義を聴きながら授業SNSの読み書きをするのは,相当負荷が大きいと思われるが,多くの学生はそうした授業形態に慣れ,しかもそれを楽しむようになった。授業SNSを組み込んだLMS (Learning Management System)と相まって,授業内外の学習はこうしたシステム導入以前に比べて充実したものになったのではないかと考えている。
2014年度は,教授法として,授業SNSを用いた協調学習統合型講義のほかに対面でのグループディスカッションを導入した。これは,オンラインでの意見交換を通して自らの考えを深めることに慣れてきた学生が,自らの考えをさらに深める機会になるとともに,対面でのコミュニケーション力を養う機会ともなることが期待できる。また,せっかく同じ教室で学んでいながら受講者同士がオンラインでしかコミュニケーションできないことに対する一部の学生の不満を和らげることにもなる。
教材
本科目の教材は,LMS(Learning Management System, 本科目では「授業サイト」と呼んでいる)に集約されている。
LMSは大きく以下の4つの部分から構成されている。そして,このLMSはクラス共通の部分(下記の1.)とクラス毎に作られた部分(下記の2.〜4.)がある。
- 教員が提供する情報(シラバス,各回授業関連情報,授業アンケート結果,成績評価結果など)
- 授業SNS(クラス全体のタイムライン,各個人のタイムライン,その他)
- 各回課題の投稿・閲覧ページ
- その他(過去ログ閲覧ページ,コメント確認ページ,投稿数確認ページ,オンラインアンケート,ヘルプページなど)
[授業SNS]
授業SNSおよびそれを一部の機能として持つLMSは,オープンソースのソフトウェアをベースにして筆者が自作した(詳細はスナップショット「授業SNSの作り方」参照)。サーバーは,ホスティングサービスを利用。
TwitterやFacebookなどの既存のソーシャルメディアは利用せず,独自のシステムを利用した理由は以下の通りである。
- 授業関係の投稿が,授業に関係ないフォロワーや「友だち」に送信されないようにするため。
- 受講者間ならびに受講者と教員との間で,授業に関係ない投稿が共有されないようにするため。
- 日常,友人などとやりとりしているのと同じ感覚で授業でも投稿することのないようにするため。
- 投稿をフローの情報ではなく,ストックの情報として活用できるようにするため。
- 投稿に関するデータを処理しやすくするため。
- LMSと一体化したシステムとするため。
1〜3は授業のためのコミュニケーション空間を独立させることに,また4〜6はデータを活用することに,関係する理由である。
授業SNSはクラス毎に作成し,授業SNSによるコミュニケーションはクラス内に限定されている。
学習活動
想定されるLMSの利用法は以下の通りである。(下記では,例として,金曜クラスの第3回授業を想定して,該当するページへリンクを張った。)
1.授業前(予習)
次回の授業ページにアクセスし,次回講義の概要について確認するとともに,授業スライドを読んで予習しておく。また,次回課題を確認し,講義を聴く際のポイントを押さえる。
2.授業中
講義を聴きながら,講義内容に関するメモ,感想や意見,疑問や質問などを授業SNSに自由に書き込む。また,タイムラインを眺め,あとでもう一度読みたいツイートやコメントしたいツイートをお気に入りに入れる。余裕があれば,コメントも付ける。
教員がオンラインアンケートを設置した時は,指示に従って回答を入力する。
3.授業後(復習,発展)
授業ページにアクセスし,今回の講義スライドを復習する。理解が不十分な部分や講義を聞き漏らした部分があれば,授業ページに掲載された授業ビデオ(講義の際のパソコン画面を音声とともに録画したもの)を視聴する。
過去ログ閲覧ページで,授業中に投稿されたすべてのツイートを再度閲覧する。時間がなければ,授業中にお気に入りにいれたツイートのみを閲覧する。コメントを付けたいツイートがあれば,コメントを投稿する。
今回の課題について文章を執筆し,課題ページから投稿する。
余裕があれば,授業ページで紹介されている今回の講義内容に関する参考文献を探して読む。また,講義に関連して興味を持ったことについて自主的に調べてみる。
前回の課題の締切が過ぎているため,他の受講者の前回課題を読むことが可能である。そこで,前回の課題ページを閲覧し,他の受講者の書いた課題を読む(時間がなければ,今回の授業冒頭に教員から紹介された課題のみを選んで読む)。
授業に関連して考えたことや他の受講者や教員から意見や情報を得たいことなどを授業SNSに投稿する。
4.その他
学期末に,期末レポートを執筆して,提出する(提出方法は毎回の課題と同様に,課題コーナーの該当するページから投稿。ただし,期末レポートは締切が過ぎても閲覧できない)。