学生の学び

東京電機大学 工学部・未来科学部 人間科学科目
2014年度前期「科学技術と現代社会」

学生の学びに関わるデータの収集

 学生の学びに関わるデータとしては,以下のものが利用可能である。これらのうち,4と6以外は,LMSの中にデータとして蓄積されていく。

  1. 授業SNSへの書き込み(授業ツイートおよびコメント)
  2. 各回の提出課題
  3. 期末レポート
  4. 成績評価結果
  5. オンラインアンケート結果
  6. 授業アンケート結果(質問紙方式,学部共通)
  7. LMSに自動記録される数量的に解析可能なデータ

 今回は,授業SNSを用いた協調学習を講義に統合した効果を確認するため,オンラインアンケートの結果提出課題を利用する。また,2014年度に新たに導入したグループディスカッションの効果を確認するために,提出課題を利用する。同じく2014年度に新たに導入したルーブリックによる期末レポート評価の結果を示すため成績評価結果を利用する。

 なお,こうしたデータの収集と利用については,シラバスに明記した「個人情報保護方針」により受講者に周知した。

授業SNSの利用について

 授業SNSを授業中に利用することについて,第14回に実施したオンラインアンケートで尋ねた結果は以下の通りである(グラフをクリックすると拡大表示)。

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 学期全体を通しての自らの学習を振り返る第14回の課題に書かれた授業SNSに関連する記述を以下に引用する。 

普段はお互い知り合っている友人との交流や会話などはよくするが、匿名性のあるSNSでの意見交換などは新鮮で、今までにない新しい形のこの授業は得るものが多く有意義なものだった。またSNS内で受講者が講師に比較的気軽に質問や要望、意見を伝えることができそれがすぐに反映されることは、学びやすい環境づくりに繋がりとても良かった。(金2) 

とてもわかりやすい講義だったので興味があった点はもちろん、なかった点も興味を持ち始め、集中して聞くことができたと思います。また、ツイッタ―でツイートをすることは最近の若者がコミュニケーションとして流行っているので、他の履修者と、意見交換がスムーズにできたと思いました。(月2)

今回初めてこのような形式の授業を受けて衝撃的だった。SNSを使った授業だったので自分から積極的に意見を授業中に比較的簡単に言えたのはとても良かった。しかし、ツイートと授業の両立は最初は難しく、授業に集中するとツイートが少なくなりツイートに集中していると授業がうまく聞けないことが多かった。しかし、後半は両方ともうまくこなせるようになって集中できるようになった。(月2)

私はタイピングがとても遅いため、講義をききながら書き込みを投稿するというのがとても難しかった。ビデオを見た後、ビデオについて書き込んでいると先生の話を聞き逃したりすることが多かった。そのため集中はしていたが、話を聞けないことがよくあった。また、書き込みについては主体的に参加できたと私自身は思う。特に人の書き込みに対してコメントすることが多かったと思う。(金2) 

[考察]

  1. 講義聴講中に授業SNSを利用するのが初めての経験だった学生にとって,講義を聴くことと授業SNSを利用することを両立させることは難しかったと思われるが,多くの学生は比較的早い時期に慣れ,他の受講者の書き込みを参考にしたり,他の受講者と意見交換や質疑応答をしたりしながら,講義を聴くことができたと思われる。
  2. 一度に多くのことをするため,集中して講義を聴くことができないのではないかという心配もあったが,かえって集中できたという学生も少なくなかった。受動的に聴講するだけの講義よりも,刺激が多いということもあったと思われる。居眠りをする受講者もほとんどいなかった。
  3. 投稿に対してコメントが付くなど,すぐに反応があることもモチベーションを高めることにつながったと思われる。
  4. 講義を一部聴き損なった場合でも,授業SNSでの他の受講者の書き込みによって補える場合があったようである。なお,教員の側でも,授業サイトで授業スライドや授業ビデオを提供し,聞き損なった学生が授業後に補えるように配慮した。
  5. 一部の学生,特にタッチタイピングが得意でない学生にとっては,講義聴講と授業SNS利用を両立させることについて困難が大きかったと思われる。そうした受講者には,講義聴講やビデオ視聴を優先し,授業SNSの利用は授業時間外にマイペースで行うよう伝えた。
  6. 何を書き込めばよいかということについての受講者間の感覚の違いにより,一部の書き込みを「授業に関係ない書き込み」や「無意味な書き込み」と捉えて,不快感を示す受講者がいた。教員としては,できるだけ多様な書き込みを認める立場で臨んだ(全く授業に関係ない書き込みや誹謗中傷等のみを「ルールとマナー」で不可とした)。

グループディスカッションについて

 第13回授業でのグループディスカッションに参加した学生の感想を,第13回課題(「今回のワールドカフェ方式のグループディスカッションに参加して感じたこと」)から引用する。

最初はとても緊張していましたが、ワールドカフェ方式は緊張することなく、自分の考えをきちんとまとめ、スムーズに発言することができました。気楽に発言できる環境を作ることで、議論が途切れることなくディスカッション自体がスムーズになる、というところが良いと思いました。(月2)

私は今までグループディスカッションの経験はありましたが、ワールドカフェ方式というものは初めて体験しました。本当にカフェで友達と話しているような感覚であまり緊張をすること無く、気軽に話すことができました。また、人数もちょうど良く、人の意見を聞きつつ自分の意見を言うことができるのでバランスが良かったと思います。(金2)

今回のワールドカフェ方式のグループディスカッションを通して、感じたのは、相手の意見を否定するのではなくしっかりと聞き入れてその意見を自分の意見を考えるのにとりこみ、まとめることの有意義さを感じた。このディスカッションの最中に自分の新しい意見がでたり新しい考え方が浮かぶということを何度も感じ、とてもよい刺激になったと思う。(月2)

電車の人身事故の影響で短い時間の参加になってしまいました。しかし、実際に他人と議論しアウトプットすることで、得られる事は多かったと思います。特にグループディスカッションでは普段の授業のようにつぶやいくだけでは成り立ちません。他人に説明するためにより根拠を示しながら簡潔に話す必要があります。”なんとなく”呟けてしまうツイートと根本的に異なると思いました。今回のグループディスカッションを通して、私は明確な自分の意見を持つことが大切だと感じました。(月2)

ワールドカフェを初めて行ってみて意外と楽しく意見交換ができたと思う。だれがどういった考えを持っているか、自分はどう思っているかを気軽に話し合えるいい方式だなと感じた。グループで出た意見をほかのグループに伝えることが少し難しいと感じた。自分の意見を言ったり人に伝えたりすることを鍛えるのにとてもいいものだと思った。(金2)

ワールドカフェ方式のグループディスカッションというものを初めて体験したが、一度ディスカッションしたグループと一旦別れ他のメンバーとディスカッションし、最後にまた最初のグループとディスカッションするのは面白かった。色々な人とディスカッションする授業は他にもあるが、それは1グループだけであったり毎回メンバーを返るという方式であり今回のとは全然違う。ワールドカフェ方式の良い点は他人と意見を交わせるだけでなく、メンバーの人たちの考えが最初と最後では違い、どうしてそう考えるようになったを知ることができる点であると感じる。(金2)

今回初めてこのような方式でディスカッションしたが他のディスカッションより周りの人とより近くで意見が言い合える感じがした。手軽に意見を交換できコミュニケーションがとりやすいと感じた。他のディスカッションだと比較的一定の人しか意見が出なかったり、意見が偏ったりする可能性があるがワールドカフェ方式だとちょっとした意見なども簡単に言えるので自由な話し合いができると感じた。しかし、まとめる人がいないので、論点がずれることが多々あった。(月2)

進行を務める役がいないため発言したい人が発言でき、ディスカッションというより特定のお題に対するトークのように感じられ、自分の意見のみにとらわれることがなく気軽に意見を交わすことが出来た。特に自分の意見をしっかり考えていてそれを積極的に発信していける人達との会話は、20分という時間が短くな感じるほどに深く密なディスカッションが出来た
 しかし一方で積極的に参加していくことがあまり得意でないような人たちとの会話では、最初に自分達の意見を言うだけ言ってその後議論が全く進まないということがあり、逆に20分が長く感じられた。そういった点では、個々のコミュニケーション能力だけでなく進行役というポジションの人も必要になってくるのではないかと思った。(金2)

[考察]

 今回のグループディスカッションでは,「核抑止論」に対する自分の立場を一応明確にした上で,しかしそれに固執することなく,多様な意見を参考にしつつ自分の考えを深めることを目的に行った。それに最もふさわしく,またディスカッションに慣れていない学生でも意見が言いやすい方式として,ワールドカフェ方式を採用した。上記の感想から,以下のような利点と欠点があることが明らかになった。

利点

  • 気軽な雰囲気で意見が言いやすい。
  • 1グループ4名という人数は,意見を言う人と聴く人が偏らずにちょうど良い。
  •  何となくつぶやけるツイートと違い,相手を説得する必要があるので鍛えられる。
  • 他のメンバーの意見の変化とその理由を知ることができる。

欠点

  • 司会がいないため,論点がずれることがある。
  • 積極的に発言することが苦手な人が集まると,議論が進まなくなる。

 上記の欠点については,一定時間毎にメンバーが入れ替わって議論がリセットされることにより,ある程度は緩和できるだろう。

 授業SNSでは一つの話題について議論を深めることがしにくいため,こうした対面でのディスカッションは本科目の目標(総合的判断力と論理的思考力の向上)達成の上で有効だと思われる。

ルーブリックによる評価について

 ルーブリックを用いて期末レポートを採点した結果は以下の通りである(グラフをクリックすると拡大表示)。 なお,コミュニケーション力と自己学習力は,ルーブリックではなく授業サイトへの書き込み数を基に評価した。また,6つの評価の中間値により総合評価を求めている。成績評価方法の詳細は「成績評価方法」スナップショットを参照。

(注)帯グラフの中の数字は,人数を示す。
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 この成績評価結果から分かることは,全体的に達成度が不十分であること,また,総合的判断力は相対的に達成度が高く,文章表現力は相対的に達成度が低いことである。これは,授業において,様々な観点からの考察を繰り返したことの現れであると思われる。また,文章表現についてはこの授業の中では特に指導しなかったことが,この成績評価結果に現れていると思われる。

  上記の問題を改善する方策としては,中間レポートを課して,それに対するフィードバックを行い,その上で期末レポートを課すことが考えられる。中間レポートでは,それぞれの弱点が指摘されるであろうから,期末レポートではそれらの改善が見られることが期待される。また,一度のレポートで成績が大きく左右されることに対する学生の不安を和らげる効果も期待できるだろう。

  なお今回初めてルーブリックを用いてレポートを採点してみたが,ルーブリックの記述のそのまま当てはまるようなケースは少なく,別の評価の記述がそれぞれ部分的に当てはまるような場合が多かった。その場合,どちらの評価を採用するか悩んでしまい,むしろルーブリックがない方が直感的に決められてよいと思ってしまう場合もあった。これは,ルーブリックの記述が不適切であることに原因があると思われるので,今回のレポートをもとにより使いやすいルーブリックに改訂して,次回の評価に臨みたいと思う。

書き込み数による評価について

 今回,達成目標5(コミュニケーション力)を測る指標として,授業SNSへの書き込み数(授業ツイートとコメントの合計投稿数)を用いた。これまでの経験から,成績評価に対応する書き込み数の基準をあらかじめ示すと,学生はそれをクリアするまでは努力するものの,それ以降は努力を怠る傾向があるため,今回はCを得る最低基準のみを示し,B以上については全体の書き込み動向を勘案して評価することにした。具体的には書き込み数のクラス中央値をB獲得最低ラインとし,それを参考にA, Sの基準も定めた。なお,受講者には,クラスにおける自分の位置を知らせるため,各自の書き込み数とクラス中央値を授業サイトで示した。

  この方式は,途中で努力を怠ることは防げたものの,受講者に過剰な競争意識を持たせる場合があった。書き込み数を成績に反映させることは,受講者に授業SNSへの継続的な書き込みを促す上で不可欠ではあるが,適度なモチベーションの維持に役立つ評価方法を工夫する必要がある。

  現在考えている改善策は,成績に反映させる各回の書き込み数に上限(たとえば,1回当たり10個)を設け,書き込み数と成績の関係をあらかじめ定めておくというものである。これで,過剰な競争を防ぐとともに,毎回きちんと書き込まないと高得点が得られないことが両立できると期待できる。 

追記:2014年度後期は,成績に反映される各回(授業があった日から1週間)の書き込み数に上限を設けた。具体的には,毎回,授業ツイートは10個まで,コメントは5個まで。これにより,書き込み数をめぐる過剰な競争は防ぐことができた。