終息宣言?

 国土交通大臣が閣僚懇談会で政府として新型インフルエンザの終息宣言を行うよう要請したという(共同,2009.6.5)。観光産業に配慮したようだ。

 これで終息宣言を出したら,日本は世界の笑い者になるだろう。日本人は文明人ではないのではないかと疑われることだろう。世界はいまパンデミックに向かいつつある。外国からのウイルスの侵入は防げない。そして,国内のウイルスが根絶されたわけでもない。集団感染がいつ起こっても不思議ではない状態が今後も長く続くのだ。

 現在,感染者の報告数は減っているが,そのことと感染者がいなくなっていることは全く別のことだ。昨日発表された発症日別感染動向(pdf)によれば,海外渡航歴のない5/5発症の人1名があとから確認されている。水際作戦でなんとか食い止めているといっていた頃だが,すでに国内感染拡大が始まっていた。これまでも日本国内の感染者の把握は不十分だったが,この終息ムードのなかでますますその把握はいい加減になっていくだろう。これまでもそうだったが,これからも新型インフルエンザは季節性インフルエンザと区別されることなく存在しつづけることになる。新型インフルエンザウイルスは日本国内に沈潜し,いずれ秋冬のインフルエンザシーズンになったらもう一度盛り返してくるはずだ。それに備えるための国内体制を官民一体となって作っていかなければならないときに,この緊張感のなさはいったい何だ。

 いま最も必要なのは,インフルエンザの監視システムの構築だ。現状では,季節性・新型ともにインフルエンザがどこでどのくらいはやっているか十分には分からない。特に新型のウイルスを検出するのは手間もコストもかかるので,すべてのインフルエンザ患者を調べるわけにはいかない。さらに,日本では新型インフルエンザ患者に対する差別・圧力があるため,必要な検査が避けられる可能性がある。ということは,見えないところで新型インフルエンザが発生し,感染拡大してしまうリスクがかなりあるということだ。インフルエンザの感染状況を常に監視し,異常が発見されたらすぐに新型インフルエンザの発生・拡大を疑うような常時の警戒態勢がとられなければいけない。そこに終息宣言とは!

 しかし,これは別に一大臣の問題ではなく,国民一般の認識かも知れない。本日の科学技術コミュニケーションの授業でアンケートをとったところ,今でも手洗いなどの個人でできるインフルエンザ対策をしている人は全体の1/3程度しかいなかった。「騒ぎすぎ」という印象を持っている人がほとんどだ。これは一見冷静なようでいて,実は非常に無防備な状態だ。いつでもパニックに転化する状態といっていいだろう。

参考:対策を急がなくちゃ!(鳥及び新型インフルエンザ海外直近情報集/徒然日記,2009.6.6)

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