科学史の存在感

科学史学会での発表準備を進めている。発表のための原稿はほぼできあがり、一安心。今回の発表の準備として、日本科学史学会の会誌を創刊号からずっと眺めてきたのだが、学会のあり方の変化がよく分かった。現在長老の方々が若かりし頃の様子なども分かり、なかなか興味深かった。
かつては、科学史という分野は専門的な学問分野としては確立されておらず、それゆえかえって著名な学者たちがいわばアマチュアとして科学史に関わり、その人たちのネームバリューもあってか、科学史はそれなりに学術界のなかで存在感をしめしていた。
しかし、科学史の専門研究者が誕生するようになってからは、著名なアマチュアが去り、かえって存在感が薄くなってしまった。これは人文社会科学の分野一般についても言えるようで、一種の「オタク化」と表現している人もいる(竹内洋「人文社会科学の下流化・オタク化と大衆的正統化」『学術の動向』2007年4月号)。科学史もまさにオタク化しつつある。
そのような中でいまでも科学史に対する一定の需要はなくなっていない。『学術の動向』という内外の学術界全体の動向を紹介する雑誌には、「誌上科学史博物館」という連載コーナーが設けられ、日本の科学史家が代わる代わる一般向けの記事を書いている。こうした活動を科学史家は決して軽視してはならない。
かつて学術会議には科学史・科学基礎論研究連絡委員会があり、学術界の中で一定の位置を閉めていたが、いまはその研連が歴史学・考古学の研連と合併して史学委員会となった。そこには科学史家がほとんどいない。当初はまったくおらず、海外との連絡に困るというわけで急遽連携会員が加えられた。これからは、科学史の研究者が一般史学の研究者と交流・協力を進めないと、科学史はますますマイナーなオタク学問に成り下がってしまうだろう。

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